水晶

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1/1/2025, 1:24:22 PM

『新年』

年が開け、今日はお父さんお母さんと一緒にお寺さんへ新年のご挨拶にやって来た。他の檀家さんが数人、向こうでお参りをしているのが見える。挨拶を終えて本堂へ行くと、お参りを終えた檀家さん達と廊下ですれ違った。

ガランと広い本堂にたった3人。誰も居なくなったね…と小声で喋りながら家の位牌が置いてある一番近くのロウソクに火を灯し線香をあげる。
『おじいちゃん、新しい年になりました。
今年も皆無事に過ごせるように見守ってください』
そう心で唱えると、風も無いのに目の前の炎がユラユラと揺らめいた。

『あ、おじいちゃんだ』
お父さんとお母さんは気付かない。けど私には分かる、おじいちゃんが合図を送ってくれたこと。
向こうでお父さんがそろそろ帰るよと呼んでいる。
じゃあおじいちゃん、もう行くねと囁くと、それに応えるようにロウソクは一瞬ボワッと炎を大きくすると、その後静かに消えていった。

12/31/2024, 1:31:25 PM

『よいお年を』

忙しい日々を過ごし、あっという間に一年が終わる。
良いことも悪いこともてんこ盛りだったが、それでも
こうして年末を無事迎えらることは嬉しいことだと思う。

リアルタイムで少し紅白を観た。
ゆず湯にいつもよりゆっくり入った。

去年は出来無かったことが今年は出来ている。
またきっと明日も変わっていく。少しずつだけれど。
そんな来年への期待を持ちつつ、今年も良い年だったと一年を締めくくりたい。

皆さまもお疲れ様でした。
どうぞ良いお年をお迎えください。

12/30/2024, 9:52:15 AM

『みかん』

地元のソウルフードと言えばみかんの餡掛け焼きそば通称『みあん』。焼きそばの塩けにみかん餡の甘酸っぱさが絶妙で子供から大人まで大人気の一品だ。
私が初めてみあんを見たのはフードコートだった。母に勧められるがままに注文したみあんだが、その見た目に私は衝撃を受けた。
焼きそばの上に何やら黄色くてベタベタした得体の知れない物がのっている。何これ…食べられるの!?
そう思った時から私はみあんを口にすることが出来無くなった。それは多分、これからも。


どうしてこうなったんだろう…。
私は目の前のみあんを見て呆然としている。
確か今日は姉が婚約者を連れて来て、家族皆で食事に出たんだけど行き付けの店がたまたま臨時休業でどうする?って話から、だったらみあんが食べたいです!って婚約者が言って…

私は静かに目をつむる。美味しい匂いが漂って来る。私はみかんも焼きそばも大好き。だから大丈夫。きっと食べられる。
私は手に汗握りながら必死に自分に暗示をかけた。




12/28/2024, 9:47:53 AM

『手ぶくろ』

「お義父さんすみません、菜緒を宜しくお願いします」
今日も息子夫婦に頼まれて、午前中だけ孫の世話にやって来た。年長の菜緒と一緒に玄関で二人を見送ると菜緒はニコニコしながら「おじいちゃん、また宝探しゲームしようよ!」と寄って来た。

相手が隠した物を見付ける宝探しゲーム。ただ『自分の私物を隠すこと』のルールがある。
よし、じゃあ最初はじいちゃんが隠すぞ〜と被ってきた帽子をソファーと壁の隙間にねじ込んだが直ぐに見付けられてしまった。ところが次に菜緒が隠した小さな手ぶくろは中々見付けられなかった。
おじいちゃん早く〜と菜緒が急かす。焦りながら家中ウロウロするがやはり無い。
何処にあるんだろう困ったな…。途方に暮れて何となく窓の外を見ると庭の赤い山茶花が目に入った。

上手いこと隠したもんだなあと菜緒に感心する。二人の目の前にあるのは山茶花の木。その山茶花の花々に紛れるように赤い手ぶくろがふたつ咲いていた。

12/25/2024, 9:38:17 AM

『イブの夜』

病院の会計を済ませ二人で玄関へ向かう。売店の脇に差し掛かった時、母が一瞬足を止めた。どうしたの?と聞くと慌ててこちらに顔を向け「何でもないよ」と歩き出した。
チラッと、売店に目をやる。
棚の下段に手作りらしき雑貨が並び、中でも赤いポーチに目に留まった。母好みの色と形、母が見ていたのはきっとこれ。

母は昔から「まだ使える」と私物を買うことがほとんど無かった。病気になってからは尚更「私は通院や入院にお金が掛かるのだから」と益々物を買わなくなっていった。
袖口や膝が擦り切れた服を見かねて、新しい物を買ってこようかと声を掛けるも母はいつもそれを頑なに拒んだ。

でも、さっきポーチ見てたじゃない…。
母は本当は我慢している。だからポーチを買って渡してもいいがきっとそれでは母の中の何かが許さない気がする。

…そうだ!

私は忘れ物をしたと言って母を車に残すと急いで売店に戻り赤いポーチを買った。
これはサンタさんからの贈り物。それだったら母も素直に受け取ってくれるのではないだろうか。

イブの夜、今夜私はサンタになる。

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