水晶

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5/21/2024, 8:44:45 AM

『理想のあなた』

私は息子の部屋を覗くと、あまりの乱雑さにため息が出た。いつもどうしてこんなに散らかるのだろう‥。お姉ちゃんは整理整頓が得意だから、何の心配も無くいたけど、同じ姉弟でも何故ここまで違うのか。

今日も見かねてそろそろ部屋を片付けたら?と声を掛けたが返事は無い。もう聞いているのかいなのかすら分からない。言っても無駄と分かりながらも私のお小言は続き、状況は更に悪化した。ああ、本当にイライラする。私はその怒りのまま浴室へむかった。

なんて酷い顔だろう。洗面の鏡に映る自分は眉間のシワとやつれた顔で下手をすると十歳も老けて見えた。私はこんな顔をして息子に話し掛けていたのか‥。子供が産まれた時、私にもこんなお母さんになりたいと理想の母像があったはず。なのに今は。

5/17/2024, 9:27:36 AM

『愛があればなんでも出来る?』

え?熟年離婚?無い無い。家に限ってそんなこと皆無だわ。連れ添って30年、自分で言うのも何だけど夫婦仲は良い方だと思う。そりゃあ喧嘩もするけどもう長い付き合いだし、どうすればいいのかお互い理解してるから長引く事は無いかな。まあとにかく、愛する気持ちはずっと変わらないってこと。それはこれからも。え?勿論!夫がヨボヨボのおじいさんになって介護が必要になったら、私が出来る限り側で世話をするつもりでいるわ。食事も食べさせてオムツだって替えて、何でもしてあげたい。きっと夫も同じ気持ちでいてくれるはず。
ねぇ、あなた。
私がもしそうなったら、あたなだってしてくれるでしょう?

「うーん‥」

何でよォ!

5/16/2024, 8:41:28 AM

『後悔』

今日は木曜日、いつも行くスーパーまるきの特売日だ。木曜市では多数の商品が90円均一なのと、まるきオリジナルのバックの持参で更に割り引きになるので、店はいつも以上に混んでいた。私は手早く買い物が済む様に買い物リストを手に店を回った。

他の客もかごいっぱいに買い物をしている。会計は長蛇の列、しかも1人に掛かる時間も長い。やっと自分の番になったのは昼近くだった。

「ポイントカードはございますか?」
そう聞かれカードを出そうするが、いくら探しても財布が無い。どうして‥と焦る頭で考える。家で財布の中身を確認し、それをまるきバックに入れた。その後トイレに行って‥ああ、トイレか‥。
その行動が流れを止めたのだと思うと、悔やまれてならない。私はレジの店員さんに、また来ますと言うと店を後にした。

5/14/2024, 9:10:56 AM

『失われた時間』

私は仕事から帰ると、急いで夕飯の準備を始めた。
今日は夜7時から小学校の役員会がある。それに合わせて頭の中でそれまでの段取りを組む。

洗濯を畳みながら長男の音読を聞く。それから子供と3人で夕飯をとって自分の仕度をしている頃、夫が帰る時間になるはず。今はとにかく夕食作りだ。私は鍋で肉とじゃがいも、人参、玉葱を入れて煮込み始めた。

醤油、みりんで味を整え、後はもう一煮込み‥になった時、次男が台所にやって来た。「おかあさん、今日はカレーじゃないの?」え?‥カレー‥?
思い出した!朝のバタバタした中で子供達に今日はカレーにしてね、と言われた事を。
作り直す時間は無い。それどころか、鍋にはもう肉じゃがが出来上がっている。それを見て悪魔の私が、いっそここにルーを入れてカレーしたら?‥とささやいた。

5/12/2024, 7:19:28 AM

『愛を叫ぶ。』

私は仕事を終えると最終列車に乗り込んだ。毎年、仕事の立て込むこの時期は暫く最終列車に乗る生活が続く。だが、それもそろそろ限界になってきた。周りを見ると、やはり疲れた顔をした人達ばかり。一刻も早く家に帰りたいが、残念な事にこの電車は各駅停車だった。

発車のベルが鳴った。静かに電車が動き出す。するとホームの階段を物凄い勢いでかけ降りて来る男性が見えた。
「待ってくれー!その電車待ってくれー!なつみー!待ってくれー!なつみー!待ってくれー!」
男性は走りながらなりふり構わず必死に叫ぶ。が、電車は止まる事無く加速し男性はみるみる小さくなった。

最終列車を追いかける電車はもう無い。これからあの男性はどうするのだろう‥
そんな事を考えていると、次の無人駅に着いた。
おや、珍しい。今日はここで降りる人がいる。白いコートのその女性は改札を出ると待たせてあったタクシーに乗り込み、もと来た方へと走り去った。

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