『後悔』
今日は木曜日、いつも行くスーパーまるきの特売日だ。木曜市では多数の商品が90円均一なのと、まるきオリジナルのバックの持参で更に割り引きになるので、店はいつも以上に混んでいた。私は手早く買い物が済む様に買い物リストを手に店を回った。
他の客もかごいっぱいに買い物をしている。会計は長蛇の列、しかも1人に掛かる時間も長い。やっと自分の番になったのは昼近くだった。
「ポイントカードはございますか?」
そう聞かれカードを出そうするが、いくら探しても財布が無い。どうして‥と焦る頭で考える。家で財布の中身を確認し、それをまるきバックに入れた。その後トイレに行って‥ああ、トイレか‥。
その行動が流れを止めたのだと思うと、悔やまれてならない。私はレジの店員さんに、また来ますと言うと店を後にした。
『失われた時間』
私は仕事から帰ると、急いで夕飯の準備を始めた。
今日は夜7時から小学校の役員会がある。それに合わせて頭の中でそれまでの段取りを組む。
洗濯を畳みながら長男の音読を聞く。それから子供と3人で夕飯をとって自分の仕度をしている頃、夫が帰る時間になるはず。今はとにかく夕食作りだ。私は鍋で肉とじゃがいも、人参、玉葱を入れて煮込み始めた。
醤油、みりんで味を整え、後はもう一煮込み‥になった時、次男が台所にやって来た。「おかあさん、今日はカレーじゃないの?」え?‥カレー‥?
思い出した!朝のバタバタした中で子供達に今日はカレーにしてね、と言われた事を。
作り直す時間は無い。それどころか、鍋にはもう肉じゃがが出来上がっている。それを見て悪魔の私が、いっそここにルーを入れてカレーしたら?‥とささやいた。
『愛を叫ぶ。』
私は仕事を終えると最終列車に乗り込んだ。毎年、仕事の立て込むこの時期は暫く最終列車に乗る生活が続く。だが、それもそろそろ限界になってきた。周りを見ると、やはり疲れた顔をした人達ばかり。一刻も早く家に帰りたいが、残念な事にこの電車は各駅停車だった。
発車のベルが鳴った。静かに電車が動き出す。するとホームの階段を物凄い勢いでかけ降りて来る男性が見えた。
「待ってくれー!その電車待ってくれー!なつみー!待ってくれー!なつみー!待ってくれー!」
男性は走りながらなりふり構わず必死に叫ぶ。が、電車は止まる事無く加速し男性はみるみる小さくなった。
最終列車を追いかける電車はもう無い。これからあの男性はどうするのだろう‥
そんな事を考えていると、次の無人駅に着いた。
おや、珍しい。今日はここで降りる人がいる。白いコートのその女性は改札を出ると待たせてあったタクシーに乗り込み、もと来た方へと走り去った。
『モンシロチョウ』
祖母が亡くなった。哀しみの中お葬式やなにやらでバタバタとした数週間が過ぎ、一旦は元の生活に戻るも、そこから家族1人が居なくなった事を改めて実感した時、更なる哀しみが押し寄せた。
おばあちゃん子だった私は、いつまでも気持ちが沈んだままだった。そんな私をある日、祖父は散歩に連れ出した。
歩きながら祖父が言う。「人は亡くなるとその魂は色んなものに姿を変えて大切な人達の側に居るそうだ。時には風になり、時には雲になり、鳥や蝶や虫になる」すると何処からかモンシロチョウが飛んで来た。2人の間をひらひらと舞った蝶は、最後に私の右肩に降りた。「ほら、ばあさんが心配して見に来たぞ」私は蝶が飛び立たないように静かに動きを止めた。
『一年後』
「あのさぁ‥。最近太った?」そう彼から指摘されドキッとする。自分でも薄々気付いていたが、ついに彼から言われてしまった。付き合い始めた頃は彼好みになろうと体型を整え、化粧や洋服も変えた。が、同棲して互いに馴染むと、その辺が段々おざなりになった自覚はある。
「色々言ったところで、どうせおまえは変わる気なんかないだろう?でも、もしも変われたら俺がおまえの座布団にでもなってやるよ」‥何、座布団て。私が何も出来ないってバカにしてるんでしょう‥?許さない‥、本当に許さない。だったらこれから私は見違えるほど変わってやる!
彼と別れて一年後、駅前の広場で彼を見付けた。
私は勢いをつけて突進し彼を押し倒すと、あれから30㎏増えた体で遠慮無く彼の上に座った。