『明日世界が終わるなら』
ちょっと待ってください。どうして明日世界が終わるんですか?そんな事誰も言って無かったじゃないですか。急に言われても困ります。私は人生の最後の最後にすることがもう決まってるんです。それには時間と準備が必要で、明日なんてとても間に合わない。とにかく時間が掛かるし、お願いにも行かなければならないし。あれはね、丸のままよりサイコロに切った方が断然美味しいんです。で、味付けは味噌。1個なんて全然足りない足りない、ご飯がわりに私だったら5個はいけますよ。だから私は何としてもそれを食べなけれはいけな‥
え?違う?ああ‥もしもの話しでしたか。いや~勘違いしました、あはははは」
交差点で信号待ちの間、ビルの壁にある大きな液晶テレビに映ったインタビューを見た。この人は一体何が食べたいのだろう‥。青になった信号に一歩踏み出すと、周りから丸‥サイコロ‥味噌の単語がザワザワと聞こえてきた。
『耳を澄ますと』
一人暮らしも2年目になった。仕事と遊びに忙しい毎日、気付けば部屋が物で溢れかえっている。昨日から丁度大型連休に入ったのを機に、私は部屋を片付ける事にした。
冬物をようやくクリーニングに出し、必要な掃除道具を買い込み家に帰る。要らない物をどんどん捨て掃除をし、夜までにはなんとか片付けを終える事が出来た。1日動いて疲れた私は早めに布団に入った。
何処からかシュー‥という音が聞こえる。最初、耳を澄まさないと聞こえないほどの小さな音が徐々に大きくなっていく。それが部屋の押し入れからだと分かると、私はビックリして飛び起きた。何だろう!?怖くてこのままじゃ寝られない。意を決しておそるおそる押し入れを開けてみると‥
閉めが甘かったのか、今日圧縮した布団袋が自力で戻っていた。
『優しくしないで』
新しい美容室を開拓したく先輩に相談すると「じゃあ、私の行きつけはどう?」と紹介された。特にシャンプーがお勧めだと言い、担当2人の内、先輩のお気に入りはメガネさん。「頭をガシガシ洗うあの力強さが気持ちいいのよ~」と大絶賛だ。
早速予約を入れて行ってみる。運良くシャンプーはメガネさんになった。なるほど、先輩の言った通り力強い。だが私には強過ぎて、とんでもなく痛い。
「どこか痒いところはございませんか?」に、もう少し優しく‥とは言いにくく、痛みに耐えた。
数ヶ月後、また同じ美容室へ行く。シャンプー担当はもう1人の女の子だった。良かった、今日は痛く無いと暫く安心して身を任せていたが、その内気付く、洗い方が優し過ぎる‥。撫でる様に洗う気持ち悪さに耐えつつ、私はもうこの美容室には来ないと決めた。
『楽園』
通っている書道教室の先生は今年で83歳。この頃「皆が学校を卒業するまでみられるかしら」が口癖だ。そして最近、今迄皆勤賞だった自分と同い年の菊地さんが、突然来なくなったことをとても気に掛けていた。
「先生、お久しぶりです」菊地さんが姿を現したのはそれから1ヶ月してからだった。あら~元気だった?と先生は嬉しそうだ。実は‥と菊地さん。家で突然倒れて救急車で運ばれ、暫く入院していたとの事。
「先生私ね、倒れた時に綺麗な花畑を見たんです」そんな話しに皆が興味津々に耳を傾ける。「暫く歩くと右側に川が流れていて、暖かくて、そこは本当に良い所でした」それを聞いた先生は、そんなに素敵な楽園だったらあちらに行くのも怖く無いわねと微笑んだ。
『風に乗って』
今日も私は夢の中で頑張って空を飛ぶ。地面からわずか20cmの低空飛行、しかも低速だ。今にも止まりそうになりながら、私はアスファルトの熱と埃臭さを感じなから飛ぶ事に集中していた。
横を歩く人達が私を器用に避けて追い抜いて行く。あまりにも遅い飛行だが文句を言う人は無く、むしろもがく私に励ましの目が向けられていて‥
と言うところでいつも目が覚める。
低空飛行の夢占いを検索すると「不安な状態」
そう、私は今日までこの研究を成功させるべく努力してきた。周りの人達の支えもあり、今日の発表の日を迎える事が出来た。大丈夫、準備は万端、後は精一杯やるのみ。そして今夜は、風に乗って大空高く飛ぶ夢を見よう。