あまりにも寒かった私はコンビニでおでんを買った。
「ありがとうございます」
レジ店員の人にお礼をして外に出た。
やっぱり雪は降らないものの外は寒かった。
どうせなら雪でも
降ってくれればいいのになんて思った。
昨日やっていたニュースで明日はもっと寒くなる
その言葉を信じてよかった。
昨日寒さを甘くみていた私は
寒さを身に染みて感じた。
そして今日は昨日より着込んでいた。
はたから見たら雪だるまみたいに
なっているかもしれない。
仕方ない生きるためだから。
私を温めてくれる人いませんか?
────『寒さが身に染みて』
「あー早く大人になりたい」
彼はそう言っていたが
私はまだ大人になんてなりたくなかった。
「えーなんで?」
苦いビールを口にする私。
「だって早く先輩と飲みに行きたいですもん」
なんて言いながらコーラを口にする彼。
「今年20歳になったばっかりだから
まだお酒になれないんだよね」
「じゃあ他の人と飲み行かないでください」
「なんで?」
「俺だけが見ていたいから」
「意味わかんない笑
貴方は来年20歳だもんね。
早く来年になるといいね笑」
「うん。
俺も一年早く生まれたかった。
もっと先輩といられたかもしれないのに。」
「じゃあそれまでに私もお酒強くなってよっかなぁ」
ポカポカした体温で彼にくっつく。
「ねぇからだ暑すぎ。水持ってくる。
まだビール半分も飲んでないじゃん。」
そういう彼の声が
なんだか心地よいBGMのように
聞こえてきて目を閉じる。
20歳になったら
お酒やタバコが解禁されますが
気分が上がってハメを外さないように
お気を付けてください。
─────『20歳』
「信じられない!!」
「あっちょっと待って!」
待てるわけないでしょ
大好きだった彼が浮気なんて
急いで家を飛び出した私は
スマホしか持ってなかった。
帰ってきた時に靴がなかったのは確かだった。
しっかりそこまで考えられたのに
私が帰ってくるのは考えられなかったんだ。
LINEで送った,少し遅くなるなんて
どのくらい遅くなるのか分からないのに。
彼とはお付き合いして5年,
最近同棲したばかりだった。
私が気づかなかったのは鈍感だっただけ?
他にもお付き合いしている女の人がいたりするの?
結局浮気してるのには変わりないんだけど。
「これからどうしよう」
財布も持ってないし
とりあえず公園に行こ
スマホがさっきからなり続けてる。
「うっさいな」
彼の名前が表示される。
どうせ「ごめん」とか
「浮気なんてしてない」とかの電話でしょ。
私,言い訳なんて聞く余裕ないよ
良かった雨なんて降ってなくて。
でも降ってたら悲劇のヒロインにもなれていたかも
さっきの状況を思い出して
涙が溢れそうで空を見上げた。
あいつのために流す涙なんてない。
そう思ったって涙は流れてしまう。
見上げた夜空には
小さくちりばめられた宝石と
大きくて綺麗な三日月があった。
良かった満月じゃなくて
だって大きくて美しい月が
私を照らしたら醜い私が酷く写ってしまうでしょ。
そんなの耐えられないから。
満月の夜だったら
月が照らさない場所にきっと隠れたわ。
良かった新月じゃなくて
だって真っ暗で姿を表さない月が
私の心を写しているようで嫌になってしまうでしょ。
そんなのどうしても耐えられないから。
新月の夜この先どう進んでいいのか分からなくて
大切なものを落としてしまいそうだから。
良かった三日月で
だって輝いている部分と暗い部分があるんだもん。
少しの光で私をどこかへ導いているようで
私を少し安心するから。
大きな暗闇が私の闇を隠してくれているようで
安心できるから
今は何も考えないで月を見ていようかな
─────『三日月』
「どこ見て歩いてんだよ!!」
「...すみません。」
声のするほうへ視線を向けると
いかにもヤが付く仕事をしているような人が
やせ細った女を怒鳴っていた。
しまった,なんでこんなところ集合場所にしたんだろう。そんな後悔をしている時
「悪い,寝坊したわ。そこら辺で時間つぶしてて」
なんてあいつからLINEがきた。
何年経っても,あいつは時間通りに来たことがない。
俺も学習しておくれていけばいいものの
5分前には着いていたいため実行することはなかった。
あいつに
「いつも通りかよ。気をつけて来いよ。」
なんてLINEを送って怒鳴られていた女の方に
視線を移した。
空き時間ができたし声をかけてみるか
なんて思う俺はいつもとは何かが違った。
「大丈夫でしたか?」
「え?」
「だから,さっきの大丈夫でしたか?」
「あぁ...えぇ大丈夫です。」
さっきから「あぁ」とか「えぇ」しか言わない彼女は
テレビに出るようなタレントには劣るが
どこか目を引く美しさがあった。
少しアルトの声で応答する彼女は
目に光が入っていないように見えた。
“何とかしたい”
そんな思いがふつふつと湧き上がってくる。
「...えっと,あそこのカフェで話しませんか?」
「はい。」
そういったもの話す内容はなくて 無言で
カフェまで歩く。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「2人です。」
「こちらの席へどうぞ」
案内されたのはよく陽の当たる温かい場所だった。
彼女との共通点を見つけるために
俺はたくたん話した。
彼女は音楽が好きみたいだ。
理由を聞いた時驚いた。
彼女は
「目を使わなくていいから」
確かにそう言ったからだ。
「......私,もうすぐ目見えなくなるみたいなんです。」
「へ?...そう...なんだ。」
「色どころか物も見ることが
出来なくなってしまうのが辛いんです。
もう生きたくないんです。」
俯いて話す彼女は肩が震えていた。
「そっか,じゃあ今見えるうちにさ色々見に行こう。」
「え?どういうことですか?」
色とりどりの綺麗な花を見に行ったり,
景色を見に行ったりと彼女を連れ回した。
最初こそ戸惑っていた彼女だが,
だんだんと笑顔になっていく姿が見えた。
「またたくさんの色を物を見よう。
色や物が分からなくなってもずっと俺が伝えるから」
彼女は僕の言葉を聞いて頷いてくれた。
「ありがとう。
私,目が見えなくなっても,行きたいなって思ったよ。
だって,ずっと君が居てくれるんでしょ?
そして私の心の中には
色とりどりのたくさんの思い出が詰まってるから。」
「“ずっと”って言ったんだからしっかり守ってね。」
笑顔で伝える彼女は世界一美しいそう思えた。
「もちろん」
俺は彼女のことを離れるなんてこと絶対にしない。
色とりどりの世界をいつまでも君とまわろう
─────『色とりどり』
連日放送される積雪ニュース
「本日は,45年振りの大雪警報が出ているので
お気を付けてお過ごしください」
なんてニュースを見て思う。
台風の時とか雨の時に言う
“〇〇年振り”
毎回聞いてるよって。
それを言って意味があるのか今の私には分からない。
分からないと言ってるけど
まず調べてない。
「雪が降ったら何したい?」
そう聞かれたら私は決まって
「雪だるま作る」
そう答えるだろう。
これは人それぞれだから違って当たり前なんだけど
私は小さい頃から
雪=雪だるま
この等式を作ってきたからこの答えは変わらない。
私の生まれた場所,
生きて感じているものが違っていれば
この等式は違うものになっていたと思っている。
私にはあこがれがある。
それは
いつか彼と一緒に雪で遊んだり,
イルミネーションを見に行くこと。
あれ?
私に“彼”なんて居たっけ?
彼は,きっと雪に隠れて死角になってるだけだよね。
あぁそっか,かくれんぼしてるのか。
透明度が高い彼だから
見つけるのに時間がかかるかもしれないけど
何年経っても探し続けるよ。
だから痺れを切らさずに待っててね?
─────『雪』