Na

Open App

「信じられない!!」

「あっちょっと待って!」

待てるわけないでしょ
大好きだった彼が浮気なんて
急いで家を飛び出した私は
スマホしか持ってなかった。

帰ってきた時に靴がなかったのは確かだった。
しっかりそこまで考えられたのに
私が帰ってくるのは考えられなかったんだ。
LINEで送った,少し遅くなるなんて
どのくらい遅くなるのか分からないのに。

彼とはお付き合いして5年,
最近同棲したばかりだった。
私が気づかなかったのは鈍感だっただけ?
他にもお付き合いしている女の人がいたりするの?
結局浮気してるのには変わりないんだけど。

「これからどうしよう」
財布も持ってないし
とりあえず公園に行こ
スマホがさっきからなり続けてる。
「うっさいな」
彼の名前が表示される。
どうせ「ごめん」とか
「浮気なんてしてない」とかの電話でしょ。
私,言い訳なんて聞く余裕ないよ

良かった雨なんて降ってなくて。
でも降ってたら悲劇のヒロインにもなれていたかも
さっきの状況を思い出して
涙が溢れそうで空を見上げた。
あいつのために流す涙なんてない。
そう思ったって涙は流れてしまう。
見上げた夜空には
小さくちりばめられた宝石と
大きくて綺麗な三日月があった。

良かった満月じゃなくて
だって大きくて美しい月が
私を照らしたら醜い私が酷く写ってしまうでしょ。
そんなの耐えられないから。
満月の夜だったら
月が照らさない場所にきっと隠れたわ。

良かった新月じゃなくて
だって真っ暗で姿を表さない月が
私の心を写しているようで嫌になってしまうでしょ。
そんなのどうしても耐えられないから。
新月の夜この先どう進んでいいのか分からなくて
大切なものを落としてしまいそうだから。

良かった三日月で
だって輝いている部分と暗い部分があるんだもん。
少しの光で私をどこかへ導いているようで
私を少し安心するから。
大きな暗闇が私の闇を隠してくれているようで
安心できるから

今は何も考えないで月を見ていようかな





─────『三日月』

1/9/2023, 11:02:37 PM