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「どこ見て歩いてんだよ!!」

「...すみません。」

声のするほうへ視線を向けると
いかにもヤが付く仕事をしているような人が
やせ細った女を怒鳴っていた。

しまった,なんでこんなところ集合場所にしたんだろう。そんな後悔をしている時
「悪い,寝坊したわ。そこら辺で時間つぶしてて」
なんてあいつからLINEがきた。
何年経っても,あいつは時間通りに来たことがない。
俺も学習しておくれていけばいいものの
5分前には着いていたいため実行することはなかった。

あいつに
「いつも通りかよ。気をつけて来いよ。」
なんてLINEを送って怒鳴られていた女の方に
視線を移した。
空き時間ができたし声をかけてみるか
なんて思う俺はいつもとは何かが違った。

「大丈夫でしたか?」
「え?」
「だから,さっきの大丈夫でしたか?」
「あぁ...えぇ大丈夫です。」

さっきから「あぁ」とか「えぇ」しか言わない彼女は
テレビに出るようなタレントには劣るが
どこか目を引く美しさがあった。
少しアルトの声で応答する彼女は
目に光が入っていないように見えた。
“何とかしたい”
そんな思いがふつふつと湧き上がってくる。

「...えっと,あそこのカフェで話しませんか?」

「はい。」

そういったもの話す内容はなくて 無言で
カフェまで歩く。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「2人です。」

「こちらの席へどうぞ」
案内されたのはよく陽の当たる温かい場所だった。

彼女との共通点を見つけるために
俺はたくたん話した。
彼女は音楽が好きみたいだ。
理由を聞いた時驚いた。
彼女は

「目を使わなくていいから」
確かにそう言ったからだ。

「......私,もうすぐ目見えなくなるみたいなんです。」

「へ?...そう...なんだ。」

「色どころか物も見ることが
出来なくなってしまうのが辛いんです。
もう生きたくないんです。」

俯いて話す彼女は肩が震えていた。

「そっか,じゃあ今見えるうちにさ色々見に行こう。」

「え?どういうことですか?」

色とりどりの綺麗な花を見に行ったり,
景色を見に行ったりと彼女を連れ回した。
最初こそ戸惑っていた彼女だが,
だんだんと笑顔になっていく姿が見えた。

「またたくさんの色を物を見よう。
色や物が分からなくなってもずっと俺が伝えるから」

彼女は僕の言葉を聞いて頷いてくれた。

「ありがとう。
私,目が見えなくなっても,行きたいなって思ったよ。
だって,ずっと君が居てくれるんでしょ?
そして私の心の中には
色とりどりのたくさんの思い出が詰まってるから。」

「“ずっと”って言ったんだからしっかり守ってね。」

笑顔で伝える彼女は世界一美しいそう思えた。

「もちろん」

俺は彼女のことを離れるなんてこと絶対にしない。

色とりどりの世界をいつまでも君とまわろう





─────『色とりどり』

1/8/2023, 10:59:54 PM