好きな本
好きな本を選んでいいよ
その言葉はいつだって
試練であり、呪いだった
男の子っぽい内容だから
まだ難しいと思うから
何かと理由をつけて
本当に好きな本を
選べたことはなかったから
何が好きなの?
私は何が好きなのがいいの?
自分で自分がわからない
ただ
今私は図書館で
何度も何度も同じ本を読んでいる
誰にも見られないように
あいまいな空
水っぽい空の色に控えめな赤がにじんでいく
昼でも夜でもない
朝日でもなければ夕日でもない
筆は紺色をパレットからすくっていくけれど
筆を置いた先は濃くなるどころか
あいまいに色が抜けていく
私は何を描きたいのだろう
何を表現したいのだろう
悩んでも気持ちはまとまらなくて
気晴らしに窓を開けてみれば
曇とも晴れともつかないような
あいまいな空が私を見下ろしていた
あじさい
雨に濡れる花が初夏の始まりを告げる
傘を閉じ、見上げた空は透き通った青
差す光に導かれて
街も、私の暮らしもうつろっていく
久しぶりに通った道は
いつの間にかあちこちが空き地になっていて
ところどころ
新しい建物が建つお知らせ看板が立っている
あのころ君と歩いたこの道
その時のおもかげはもう残っていない
その時の気持ちも
もう私には残っていない
街並みも環境もうつろっていく
人の心もうつろいゆくものだ
振り返らない私のうしろで
変わらないあじさいの花だけが
泣いているように雫をこぼしていた
好き嫌い
好き
無造作にちぎった花びらは
嫌い
風に吹かれて遠くに消えていく
好き
無心で花びらをちぎっていって
嫌い
いつの間にか花びらはなくなっていた
好き、嫌い、好き、嫌い
いつまでも続けている
どっちで終わっても不安で
信じられなくて
目線は無意識に次の花を探す
良くないことだとわかっている
自分にとっても
花にとっても
なのにやめられない
貴方は私のこと、好き?
私は貴方のこと、嫌いなの?
街
初めて訪れた街は何もかもが大きくてきらびやかで
ただただ圧倒されていた
こんなところでやっていけるのだろうか
憧れて来たのにも関わらず
不安でいっぱいだった
今となってはこの街は俺の第二の故郷だ
お店が立ち並ぶ華やかな通りも
行き交う様々な人種の人たちも
今は心地よい
すっかり行きつけになった店の扉を開ければ
馴染の面子が声をかけてくれる
俺はこの街が好きだ