泣かないよ
さよならを告げる君
別に突然のことじゃない
僕にも、君にも夢があって
お互いの道が違っていた
ただそれだけのこと
幼稚園の頃からだったから
思えば長い付き合いだった
当たり前のように一緒にいて
どちらからともなく惹かれ合った
名残惜しいよね
寂しいよね
君は必死に泣くのを我慢しているけれど
僕は泣かないよ
お互いに決めたこと
揺らいではいけないから
怖がり
君はいつだって
僕の後に隠れるようについてきていた
知らない人に挨拶する時
二人だけで商店にお使いに行った時
僕が気まぐれで肝試しに夜のお墓に行った時
小さくて可愛かった君は
しばらく見ないうちに
すっかり綺麗な大人の女性になっていた
なのに、帰りの道で君は僕の袖を掴む
「その、田舎の夜道は、怖くって」
どうやら君の怖がりは
大人になっても治っていないらしい
懐かしい気持ちで
僕は君を実家まで送っていった
星が溢れる
「うわぁ〜」
感嘆の声を上げながら空を見上げる君
足元気を付けないと、危ないよ
そう言う間もなく躓いてよろける君
咄嗟に手を出した僕も支えきれず
二人揃って草むらに倒れ込む
「いった…大丈夫?」
「私は平気。ごめんね、巻き込んじゃって」
仰向けになって空を見る君にならって
僕もごろりと仰向けになってみる
満天の星空が瞳に飛び込んできた
「見慣れた景色だと思っていたけど
確かにすごい光景だな」
久しぶりに帰ってきた田舎の夜空は
宝石箱をひっくり返したようにきらびやかだった
溢れて、零れ落ちそうな星の下
君と僕はいつまでも寝転がって
その光景をながめていた
安らかな瞳
「来てくれてありがとう」
大きな月を背に、君は微笑んだ
「最期に、会いたかったから」
行くな
そう、引き止めたかったのに
声も出せず、足も動かない
「あなただけがわたしのこと、わかってくれた」
君のやろうとしていることは間違っている
まだ引き返せる
なのに
「ありがとう、さようなら」
君は遠ざかっていって
ビルの下に消えた
僕の記憶には
君の安らかな瞳だけが残された
ずっと隣で
どうしたの?
ひとりぼっちで、うずくまって
ないているの?
かなしいことがあったの?
お友だちに、仲間はずれにされたの?
それはさみしくて、つらいね
でもだいじょうぶだよ
きみはきっと乗りこえてつよくなれる
それまではわたしが
ずっと隣でみまもっているね