落ちていく
とっさに差し伸べた手は届かなかった
「あっ、あー、ああぁ」
間抜けな声を上げながら
見守ることしかできない
崖下に落ちていったペンは
何度か岩にぶつかる音を響かせて
消えていった
「大事にしてたのに…」
這いつくばってうなだれる
「そんなもの、またいくらでも買ってあげるよ。そんなことよりあまり崖に寄らない。君が落ちてしまったら代わりがないんだから」
うなだれる私に声をかけてくれるあなた
まったく
「今度はもっと可愛いやつを買ってね。あとパフェご馳走してよ」
「あはは、了解」
あなたがそんなだから
私はあなたに落ちていくのだ
夫婦
夫婦ってなんだろう
書類を書いて判を押して
式を挙げれば夫婦になれる?
夫婦ってなんだろう
愛を誓って共に生きる
夫婦になれば幸せになれる?
形式とかそんなのなくてもいい
誰もが羨む
幸せな夫婦でありたい
どうすればいいの?
失ってしまった
何もかも
道はわからず
頼る人もいない
失ってしまった
自分の居場所
大好きだったあなた
全部私が悪かったの?
どうすればよかったの?
この先
どうすればいいの?
暗闇の中
途方に暮れる私を
助けてくれる人はもういない
宝物
あの日、僕たちは冒険をした
おじいちゃんの使っていた机
その引き出しから宝の地図が出てきたから
手を取り合って
崖を登って
行き着いた先は小さな祠
だけど、祠の周りを探しても
宝物は見つからなかったんだ
意気消沈する僕たちの前に
祠を手入れしに来たというおじいさんが現れた
話を聞くと
おじいさんは僕のおじいちゃんの友人だった
僕の持つ宝の地図を見て
おじいさんは言った
「残念がらなくてもちゃんと宝物はここにあるんだよ」
手を伸ばした先
夕陽が町を照らしていた
今思い出す
確かに宝物はあったんだ
あの夕陽を見て笑い合う
僕たちの思い出というかけがえのない宝物
だから僕はそっと机の引き出しに地図を仕舞う
僕がこの世を去ったあと
君がこの地図を見つけてくれるように
キャンドル
火を灯す
願いを込めて
祈りを込めて
暖かさと
穏やかさと
神聖な空気に満ちる
どうか平和な日々を