最悪
悪いことというのは、重なるもので。
「うわ…最悪…」
思わず悪態をつく。
どうして、こんなところに落ちているのか。
お気に入りのリキッドファンデが
踏みつけられた衝撃で中身を床にぶちまけている。
どういうわけか
目覚ましもスマホのアラームも鳴らず
もうどう頑張ったって遅刻確定である。
まぁ…会社に着いたところで
昨日のトラブルのせいで気が重いばかりなのだが。
「もーう…」
なんだか、どうでもよくなってきた。
お風呂に勢いよくお湯を張り
溜まるまでの間で踏みつけてしまったものを片付ける。
幸いにも、半分くらいは残っているようだ。
なんだ。最悪でもないか。
お気に入りのアロマも垂らして、
ゆっくりお風呂に浸かって。
朝ごはんはいただきもののちょっといい鮭の瓶詰めを開けよう。
もうここまできたら、私は無敵だ。
何が何でも、最高だったとたと思える一日にしよう。
誰にも言えない秘密
穏やかに。いつもの調子で。
僕は君の話を聞き、相づちを打ち、笑ってみせる。
いつもの日常。だけど。
胸が苦しい。
後ろめたい気持ちと、これが正しいと思う気持ち。
混乱して、言葉が出てこない。
「何かあった?」
不思議そうに首をかしげる君に
平静を取り繕って、なんでもないと笑う。
なんでもなくはない。
君が隣にいるのに。
なんだろう。この、孤独感は。
この秘密を、君に打ち明けてしまえば
楽になれる?
そんなことはないだろう。
聞いてしまえば、君は辛い思いをする。
きっと、どうしたらいいかわからなくなる。
だから。
自分の罪は、誰にも言えない。
狭い部屋
目を開けると飛び込んでくるのは白い天井。
狭い部屋にあるのは自分が身を預けているベッドと
自分と繋がっているいくつかの計器。
吊るされた薬剤のパック。
安静を命じられた身体は、
拘束されている訳でもないのに
繋げられたチューブ達に縛り付けられているよう。
静寂の中、機械の音だけが規則的に響く。
世の中から切り取られたこの狭い空間。
いつまでもこんなところにいると、
悪いことばかり考えてしまう。
自分はいつ、この部屋から出られるのだろう。
失恋
夕暮れ時の体育館裏。
転がっていったボールを取りに行って、
偶然君を見つけたんだ。
君は、落ち着きなくそわそわしていて。
そんなつもりはないけれど、
僕は思わず草陰に隠れる。
やがて、あいつがやってきて。
君は、恥ずかしそうに想いを告げた。
彼女の恋は今、始まったんだ。
そして僕の恋は今、終わったんだ…
正直
楽しいことがあれば笑顔で。
ちょっとだけからかったら怒って。
悲しいドラマを見れば、すぐに涙をこぼす。
いつだって、君の表情は正直だ。
だから、わかってしまうんだ。
別れの言葉を口にする君が、
本意ではないことが。