梅雨
暗くて狭い自室で、ひとり転がっている。
身体は重く、ひどく頭が痛い。
しとしと。しとしと。
雨音がひどくうるさく感じる。
この空間にいると、
この世界にひとりぼっち、
取り残されたような気持ちになる。
しとしと。しとしと。
何も、する気が起きない。
このまま自分も、梅雨に溶けてしまいたい。
天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、
君は、何時だって屈託なく話しかけてくれる。
晴れの日も、曇の日も、雨の日も。
「今日は、よく降りますねぇ」
なんて、おどけた調子で。
「前線が停滞してるからね。こっちは梅雨がないなんてよく言うけど、近年はこんなことが多いよね」
つい、理屈っぽく返してしまう。
「本当に詳しいなぁ」
一応、気象予報士に憧れがあるオタクだからね。
じゃあ、君は何に興味があるの?
どうして毎日、こんな僕に声をかけてくれて。
とりとめのない天気のうんちくを聞いてくれているの?
僕は…
確かに、天気のことは大好きだ。
だけど、最近はそれだけじゃない。
話しかけてくれる君のことが、
気になって気になって仕方がないんだ。
だけど…
そんなこと、とても言い出せなくて。
今日も他愛のない天気の話で一日が過ぎていくんだ。
ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。
走る。とにかく走る。
別に、何かに追われている訳ではない。
どうせ、誰も追いかけてなんか来てくれない。
そんなこと、わかっている。
なのに、足を止められない。
止めてしまったら、泣き出してしまいそうだから。
私は、あの人たちから逃げた?
いいや、違う。
私は、多分自分から逃げ出した。
だから、必死に走るしかなかった。
これから先、どこに行けばいいのだろう。
「ごめんね」
暗闇の中、寝顔の輪郭をなぞる。
起きる気配はない。
起きてしまわないように、薬を盛ったのは自分だ。
永遠に守る。共に行く。
その言葉は、とても嬉しかったけど…
一緒に行くことはできない。
最期に、一瞬だけ口づけて。
名残惜しい気持ちを断ち切る。
後はもう振り返らない。
許されないとわかっている。
聞こえないとわかっている。
それでも、その言葉を口にする。
「ごめんね」
半袖
暑い。
こんな暑さになるなんて聞いていない。
来てくる服を間違えた。
半袖だ。半袖で良かったではないか。
しかし、半袖に合わせる上着がない。
半袖は難しい。
単独で着るにはまだまだ早すぎる。
かといって、上手く合わせる上着がない。
長袖で、薄手の、この季節に丁度よい上着は、
いつ、どこへ行けば手に入るというのか。
ネット?生地感がわからないではないか。
ああ、半袖。半袖は難しい。