給食の時間、仲良しグループで席をくっつけて、雑談をしながら、食事をする。
雑談の内容は、いたって簡単。「昨日推しが出ていた。」「昨日、親と喧嘩した。」「さっきの授業つまらなかった。」「今日も先輩に会えた。」なんて、本当に単純な会話。大きく広がるわけでもない題材を3つも4つも上げて、話す。それが、私たちのグループだった。
今日もなんてことない会話をしていた。ある1人が話を作った。
「よくさ、無人島に1つだけ物を持って行けるとしたら何を持っていく?みたいなやつあるじゃん?皆なら何を持ってく?」
「あー、あるね。私はナイフかな。意外と使えるし。」
「私はライターとか、火を起こすのって超大変そうじゃん。」
「えー、私はなんだろう。布…?水の確保とかにも使えるし。」
それぞれが、理由とともに持って行く物を上げていく。どれが正しいとか正直分からないけど、こういう会話も楽しい。
「いや、やっぱ私は家かな。家持ってく。」
「いや、強すぎるw」
「それは、最強すぎるって!w」
なんて会話をしながら、笑いを含んだ空気を残し、いつの間にか別の会話へと移っていった。
家に帰り、なんとなくテレビを付けてソファーに腰を下ろした。今の時間帯はニュースしかやっていないため、テレビの音を環境音的な役割して、スマホを触っていた。
『では、次のニュースです。無人島に居た男性を保護。』
その話題に、目を向けた。タイムリーな題材のニュースが流れていた。昼間にした会話を思い出しながらニュースを見ていると、保護された男性へのインタビューに映り変わった。
『無人島では、どのようにして生活を?』
『ナイフとライターを持っていたので、それで食い繋いでいました。服を使って飲料水を作りました。』
その言葉を聞いて、昼間の会話を思い出す。急いで会話アプリのグループ枠に連絡をした。
【ねぇ、今ニュース見てたら、無人島のやつやってた】
【見た見た、私達の答えのまんまじゃん】
【ヤバすぎる】
そういう会話を繰り広げ、次の日の昼間までその会話は続いた。その日の会話題材は「宇宙に行ったら」だった。その日のニュースは、宇宙ロケットから帰還した宇宙飛行士の話で持ちきりだった。インタビューも全て、私達がやりたいね。と話していた内容そのものだった。
私達は、だんだんと怖くなり、ある時から「もしも、☓☓だったら。」という話をしなくなった。
そうしていく内に、会話内容も忘れ、何に怖がっていたのかもわからなくなっていった。学年が一つ上り、私達は別々のクラスへとなっていったが、お昼には必ず誰かのクラスへと集まり、花を咲かせていた。
その日も、なんとなく、ただ単純な疑問が残り、二人に聞いた。
「ねぇ、もし明日世界が終わるなら、なにがしたい?」
「えー、私はねー。」
ケラケラと私達は、笑いながら話す。
明日はなんの題材で話そうか。
No.12 _明日世界が終わるなら_
君と出会って、世界の色を知った。
君と出会って、夏祭りをさみしく感じた。
君と出会って、夜な夜なの作戦会議が楽しかった。
君と出会って、意味もなく怒られた。
君と出会って、人間の言葉を知った。
君と出会って、私は小説を書いた。
No.11 _君と出会って_
小さな頃から、耳が良かった。別に遠くの音が聞こえるとか、そういうものじゃないけど、集中して耳を澄ますと海や山の声が聞こえてた。
【今日は、雨だから山に来ては、いけないよ。】
【今日は、天気がいいから海においで。綺麗だよ。】
そう、海や山は語りかけてきた。「警告」や「遊びにおいで。」などの言葉通りに動くと、本当にその通りになった。警告された日に土砂崩れが起こったり、遊びに誘われた日は砂浜で貝殻がたくさん取れたり。その事を両親や村の人達に話しており、全員偶然だろうと本気にはしていなかった。
しかし、年月が経っても、私には海や山の声が聞こえており、私は毎日村の人達にも、伝えていた。
「今日は、山に登ると良い山菜が取れるそうですよ。」
「今日は、海に近づかないでね。瓦礫が多いみたい。」
信じていなかった村人たちは、年月を重ねるに連れて、私の事を信じるようになった。神の生まれ変わりだとか、お告げをするために生まれてきたとか。
そうして、私はいつの日か、木枠に囲まれたとある場所に閉じ込められた。自由が一切なく、村人から豪華な果物や魚などが、朝晩に届けられ、それを食し、海や山の言葉を村人に伝える。
ただ、それだけ。
日付の感覚もなくなり、窓も無いため、時間感覚は朝晩の配給でしか補えなくなった。
ある日、海と山から荒れた声が聞こえた。
【【あぁ、我が子よ。そこから出してやろう】】
そう、言われた。その瞬間感じたこともない揺れと音を感じた。扉を開けられない為、どうすることも出来ない。ただ、1人。その揺れと音に怯えながら耐える他無かった。
数分以上も続いたように感じた感覚は落ち着き、扉にドンという低く鈍い音がした。その衝撃で扉が半壊。光をさしていた。私は半壊した扉をゆっくりと開けた。
目の前に広がるのは、跡形もなくなった村だったもの。
目を開き、状況を飲み込めない私に、海と山は囁いた。
【【さぁ、もう自由だよ。】】
耳を澄ませずとも、耳元で鮮明に聞こえた気がした。
No.10 _耳を澄ますと_
「ママには、言っちゃだめだよ。」
布団で作ったテントで2人だけの作戦会議。ゲーム機を起動して、画面の明かりを最小限にして、小さな小さな作戦会議室を作った。
「まかせて…!絶対ママには言わない。」
今日の作戦会議の題材はママの誕生日のプレゼントについてだった。日中は、ママに見られているから、ママに内緒の話ができない。だから、ママもパパも寝ている夜中に、こっそりと私達は、テントを作った。
会議の結果、私達は似顔絵を書いて渡すことにした。ママにもらったクレヨンで、可愛くママの事を書いて、私達は、ママの誕生日に渡した。結果は大成功だった。
「いつの間に、二人で決めたの?そんな素振り一切なかったのに。」
ママは驚いた顔をしながらも、私達を抱きしめてくれた。私達は内緒と約束をしていたので、ママには伝えなかった。
幼い頃から始めた、夜な夜なの作戦会議。今日は、きっと人生最大の作戦だ。
昔よりも背丈が伸び、テントの大きさは倍になっていた。ゲーム機も古くなって、明かりの付きが悪い。それでもいい。だってきっとこれが最後の作戦会議だから。
私達は、窓から屋根へ飛び移り、そのまま庭へ降りた。初めて外に出て、裸足に触る草の感覚に驚いた。チクチクしててくすぐったい。それでも、私達は足を止めることはなかった。二人で手を繋いで小走りに向かった。とにかく、人が多い場所へ向かった。途中、草ではなく、硬い石ばかりの地面になり、痛くてスピードが落ちたが、それでも足を止めなかった。
私達が逃げ出した理由。それは、これが犯罪だと知ったから。
ゲーム機で動画を見ることが出来て、私達は、定期的に作戦会議の休憩時に動画を見ていた。その際に、たまたま流れてきた「監禁」というワードが使われた動画を誤タップしてしまい、見たのが始まりだった。それから、私達は、逃げるための作戦会議を沢山の時間をかけて練った。
だから、逃げる。ママとパパから。
「君たち、何をやっているんだい。」
足が止まった。声をかけたのは、帽子を深く被る知らない大人だった。ママとパパ、そして互い以外と話したことがなく、吃ってしまったが、状況をなんとか伝えた。
「わたし、た、ち。ママとパパに、おへや、ずっと、中に、いれられてて、」
「逃げてきたんだね?」
「そう、です。たすけてくだ、」
「悪い子だ。」
帽子を取った人物は、よく知る顔。私達のパパだ。そうして、私達は、抵抗する間もなく車に乗せられ、部屋に連れて行かれた。
「もう、逃げてはいけないよ。マイドール達。」
その日以来、私達二人の秘密の作戦会議は行われなくなった。部屋は分けられ、常に部屋に誰かが居るから。
「ねぇ、いる?」
「うん、いるよ。」
「また、会議しようね。」
「もちろん。」
No.9 _二人だけの秘密_
パチパチと散りゆく、色が灯る火花が足元を照らす。しゃがみ込み、目線が外せない。
「先に落ちたほうが負けね。」
そういう彼女は、目線を交わしてはくれなかったが、少し微笑んだように見えた。
「いいよ。負けた方は勝った方の言う事聞く。」
「強気だね、いいよ。」
会話はそれだけだった。
火花がポツリと落ちた。僕の負け。
「あーあ。負けちゃった。」
「じゃあ、私の勝ちね。」
彼女の線香花火が落ちるのを二人で見届ける。数秒後、彼女の持つ火花は散った。
「罰ゲームは何にするの?変なのは止めてくれよ。」
彼女は、燃え尽きた線香花火を持ってきたペットボトルの水に付け、立ち上がった。
僕に背を向け、下駄を鳴らした。
カランコロン
「じゃあ、君に課す罰はー」
ゆっくりと僕の方を向いて、悲しそうに笑った。
「もう、一人ぼっちだった私に優しくれなくて大丈夫よ。一緒にいてくれてありがとう。あと、約束守ってくれてありがとう。」
そう言い、彼女はカランコロンと音を鳴らして、姿を消してしまった。
周りをぐるぐると見回し、彼女を探したが、彼女は見つからなかった。人混みから外れていて、見回しも良いのにも関わらず、見失ってしまった。
「…!」
彼女を探そうと、名前を呼ぼうとしたが、彼女の名が出てこない。さっきまで一緒だった。
…いつから…?彼女といつ出会った?彼女の名前は?彼女は、誰だ?
そう、考え出すと、目の前が真っ暗になった。
電子音が聞こえてきて、瞼に光が入る感覚に目を開くよう諭される。僕は目を開けると、白い天井が視界を占領する。
「ここ…どこ。」
「…起きたの!?」
声の方を聞くと、母親が立っていた。
「やっと…やっと、目を覚ました…!」
「どういうこと…?」
泣きながら母親は説明をする。僕は夏休み中の祭りに通り魔に会い、意識不明で倒れてしまっていた、と。
では、あれは夢だったのか。知らない人が出てくることなんて夢ではよくあることだ。僕はそれを見たに過ぎない。
「綺麗だったなぁ…。」
「なにが?」
「夢で出会った人。浴衣と下駄姿の女の人。一緒に線香花火をした。」
「そっか、夢の中だけでも、ツラくない夏祭りが送れたのね。」
そういうと、母は花瓶の水を変えようとしていた。
「その花は?」
「あぁ、この花?昔、貴方と仲が良かった子のお母さんから貰ったのよ。」
「仲良かった子のお母さん?本人は?」
「昔、夏祭り前に亡くなっちゃったのよ。覚えてない?一緒に花火しようって貴方たち約束してたのよ。」
そう言うと、母は外に出てしまった。
母の腕に抱かれ揺れる【オオデマリ】は花火を写真で取ったときのように見えた。
No.8 _優しくしないで_