霧つゆ

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 パチパチと散りゆく、色が灯る火花が足元を照らす。しゃがみ込み、目線が外せない。

 「先に落ちたほうが負けね。」

 そういう彼女は、目線を交わしてはくれなかったが、少し微笑んだように見えた。

 「いいよ。負けた方は勝った方の言う事聞く。」

 「強気だね、いいよ。」

 会話はそれだけだった。
 火花がポツリと落ちた。僕の負け。

 「あーあ。負けちゃった。」

 「じゃあ、私の勝ちね。」

 彼女の線香花火が落ちるのを二人で見届ける。数秒後、彼女の持つ火花は散った。

 「罰ゲームは何にするの?変なのは止めてくれよ。」

 彼女は、燃え尽きた線香花火を持ってきたペットボトルの水に付け、立ち上がった。
 僕に背を向け、下駄を鳴らした。

 カランコロン

 「じゃあ、君に課す罰はー」

 ゆっくりと僕の方を向いて、悲しそうに笑った。

 「もう、一人ぼっちだった私に優しくれなくて大丈夫よ。一緒にいてくれてありがとう。あと、約束守ってくれてありがとう。」

 そう言い、彼女はカランコロンと音を鳴らして、姿を消してしまった。
 周りをぐるぐると見回し、彼女を探したが、彼女は見つからなかった。人混みから外れていて、見回しも良いのにも関わらず、見失ってしまった。

 「…!」

 彼女を探そうと、名前を呼ぼうとしたが、彼女の名が出てこない。さっきまで一緒だった。
 …いつから…?彼女といつ出会った?彼女の名前は?彼女は、誰だ?
 そう、考え出すと、目の前が真っ暗になった。

 電子音が聞こえてきて、瞼に光が入る感覚に目を開くよう諭される。僕は目を開けると、白い天井が視界を占領する。

 「ここ…どこ。」

 「…起きたの!?」

 声の方を聞くと、母親が立っていた。

 「やっと…やっと、目を覚ました…!」

 「どういうこと…?」

 泣きながら母親は説明をする。僕は夏休み中の祭りに通り魔に会い、意識不明で倒れてしまっていた、と。
 では、あれは夢だったのか。知らない人が出てくることなんて夢ではよくあることだ。僕はそれを見たに過ぎない。

 「綺麗だったなぁ…。」

 「なにが?」

 「夢で出会った人。浴衣と下駄姿の女の人。一緒に線香花火をした。」

 「そっか、夢の中だけでも、ツラくない夏祭りが送れたのね。」

 そういうと、母は花瓶の水を変えようとしていた。

 「その花は?」

 「あぁ、この花?昔、貴方と仲が良かった子のお母さんから貰ったのよ。」

 「仲良かった子のお母さん?本人は?」

 「昔、夏祭り前に亡くなっちゃったのよ。覚えてない?一緒に花火しようって貴方たち約束してたのよ。」

 そう言うと、母は外に出てしまった。
 母の腕に抱かれ揺れる【オオデマリ】は花火を写真で取ったときのように見えた。

No.8 _優しくしないで_

5/3/2024, 4:59:59 AM