霧つゆ

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 「ママには、言っちゃだめだよ。」

 布団で作ったテントで2人だけの作戦会議。ゲーム機を起動して、画面の明かりを最小限にして、小さな小さな作戦会議室を作った。

 「まかせて…!絶対ママには言わない。」

 今日の作戦会議の題材はママの誕生日のプレゼントについてだった。日中は、ママに見られているから、ママに内緒の話ができない。だから、ママもパパも寝ている夜中に、こっそりと私達は、テントを作った。
 会議の結果、私達は似顔絵を書いて渡すことにした。ママにもらったクレヨンで、可愛くママの事を書いて、私達は、ママの誕生日に渡した。結果は大成功だった。

 「いつの間に、二人で決めたの?そんな素振り一切なかったのに。」

 ママは驚いた顔をしながらも、私達を抱きしめてくれた。私達は内緒と約束をしていたので、ママには伝えなかった。

 幼い頃から始めた、夜な夜なの作戦会議。今日は、きっと人生最大の作戦だ。
 昔よりも背丈が伸び、テントの大きさは倍になっていた。ゲーム機も古くなって、明かりの付きが悪い。それでもいい。だってきっとこれが最後の作戦会議だから。

 私達は、窓から屋根へ飛び移り、そのまま庭へ降りた。初めて外に出て、裸足に触る草の感覚に驚いた。チクチクしててくすぐったい。それでも、私達は足を止めることはなかった。二人で手を繋いで小走りに向かった。とにかく、人が多い場所へ向かった。途中、草ではなく、硬い石ばかりの地面になり、痛くてスピードが落ちたが、それでも足を止めなかった。
 私達が逃げ出した理由。それは、これが犯罪だと知ったから。
 ゲーム機で動画を見ることが出来て、私達は、定期的に作戦会議の休憩時に動画を見ていた。その際に、たまたま流れてきた「監禁」というワードが使われた動画を誤タップしてしまい、見たのが始まりだった。それから、私達は、逃げるための作戦会議を沢山の時間をかけて練った。
 だから、逃げる。ママとパパから。

 「君たち、何をやっているんだい。」

 足が止まった。声をかけたのは、帽子を深く被る知らない大人だった。ママとパパ、そして互い以外と話したことがなく、吃ってしまったが、状況をなんとか伝えた。

 「わたし、た、ち。ママとパパに、おへや、ずっと、中に、いれられてて、」

 「逃げてきたんだね?」

 「そう、です。たすけてくだ、」

 「悪い子だ。」

 帽子を取った人物は、よく知る顔。私達のパパだ。そうして、私達は、抵抗する間もなく車に乗せられ、部屋に連れて行かれた。

 「もう、逃げてはいけないよ。マイドール達。」

 その日以来、私達二人の秘密の作戦会議は行われなくなった。部屋は分けられ、常に部屋に誰かが居るから。

 「ねぇ、いる?」

 「うん、いるよ。」

 「また、会議しようね。」

 「もちろん。」

No.9 _二人だけの秘密_

5/4/2024, 1:37:55 AM