善悪の区別は難しい。世間から見て「善」と呼ばれる人たちの正義の行為は、「悪」と呼ばれる人たちからは「悪」の行為でしか無い。逆もしかり。
教室で、耳に響く大きな音が鳴った。中に入ってた水が散らばり、形を保っていたものが、無へと帰った。純情だったものは、萎れたように見える。
「あー!!花瓶が割れてる!誰かが割ったー!!」
たった1人。声を上げた。その声は人を引き付ける能力を帯びており、廊下に他クラスの観客が集まった。雑多している中、声を聞きつけて他クラスの担任も来た。大人の背丈は、子供よりも高いため、子どもの壁ができていようと、教室の出来事を直視することが可能だった。
「誰だ!割ったのは!」
先生が声を上げると、子どもたちはヒソヒソと小声で小さな会議を始める。たった1人の名を口にして。
「割ったのは、すいどうくんだと思います。」
発言は学級委員長のはなたかさん。彼女は、成績優秀で周りからよく信頼されている、いわゆる優等生。
はなたかさんの発言を先陣にし、それぞれが思うことを発言した。
「すいどうくん、いつもふざけてるし。」
「そうだよ。すいどうくん、よく教室で暴れてるから、その時割ったんだよ。」
「すいどうくん、謝んなよ。」
誰一人として、彼を保護する言葉はかけなかった。彼はいわゆる問題児。大声を出す、暴れる、ふざける。そのため学年全体で、彼は「悪」であると言われていた。
「ち、違う!おれじゃない!」
彼がどんなに声を出し否定をしようとも、30、40の人へは届かなかった。
「こら、すいどうくん。割ったなら謝るのが先だろう!」
先生は怒った。すいどうくんは、口をきゅっと結んで走って教室を出ていった。先生は後を追いかけ、生徒たちだけの空間になった。はなたかさんは、誰よりも早く雑巾を持ってきて床を拭いた。
「流石、はなたかさんは気が利くね。」
「はなたかさんのせいじゃないのに、掃除してて偉い!」
誰もが彼女を称賛した。彼女は床を見て拭くふりをしながら口元を緩ませた。
彼女は、怒られず、尚且つ自分が褒められる立ち位置に属するのが好きだった。
彼女は、割った花瓶を集めて、職員室に向かう途中、次の褒められるための犠牲を探した。
No.3 _善悪_
「流れ星なんて早すぎて、3回言う前に消えちゃうよ」
そう、口を尖らせたあの子が言った。
「日頃から強く思ってることを言うといいんだよ。」
僕は訂正した。日頃から強く思っていることを言えば、たった一回だけでも強く願いが届く、そう誰かから聞いた。
「ちなみに、何を願ったの?」
「ないしょー!言ったら叶わなくなるかもしれないじゃん。」
「たしかに」
僕は納得した。願い事を言ったら叶わない。よく、神社の参拝時に言われることだ。
しかし、この世には言霊という言葉もある。言った内容通りになるという昔ながらの言葉。
「言霊って知ってる?」
「えっと…言った言葉がその通りになるっていうやつだっけ…?」
「そう。言ってみたら案外叶うかもしれないよ?」
「え、それを理由に、君に私の願い事教えるの!?だったら、君の願い事も教えてよ。互いに教え合えば恨みっこなしだよ。」
あの子は、はにかんだ。僕は「わかった。」と承諾をした。
【流れ星よ。僕の願い叶えてくれるかい。】
「じゃあ、君から教えてよ。」
「え、僕から?」
【流れ星よ。君の速さでは僕の願い事は一回しか言えない。】
「しょうがないな、じゃあ、僕から言うね。」
【流れ星よ。それでも、強く強く願っているから、一回だけでも届かないだろうか。】
「君に初めてあった時から、君の仕草や表情に惹かれ…」
「待って待って、長い長い!流れ星にその量は届かないでしょ!もっと短く!」
【流れ星よ。この短さなら届くかな。】
「君が好きだ。」
No.2 _流れ星に願いを_
「ルールを守って生活しましょう。」
生まれたときからある、呪縛のような言葉。ルールは時に身を守り、時に個性を殺す。そういう風に思って生きてきた。
ルールを破ることは、自分に罪悪感を齎した。「あ、今いけないことをしている。」「見つかったらどうしよう。」そんな風に心のなかで自分の良心と格闘する。
駄目だと分かっていながらも、僕は足を止めること無く入っていった。
手に冷たい水が付き、待っている間も誰かに言われるのではないかと、ドキドキした。前列の人に言っても仕方がないことだが、「早く早く」と呪文のように繰り返した。
自分の番になり、僕を悪の道へと連れ出す物が、電子音を鳴らした。もう、後戻りはできない。僕は、すかさず握りしめていた価値を渡して、外に出た。
「つ、ついにやっちゃった…。」
証拠隠滅のために、それを口に運ぶ。その瞬間に罪悪感なんて消えていった。僕が破ったルール。
【学校のルール!】
『1、帰り道に寄り道してはいけません!』
頭の中で一度、ルールを復唱したが、僕が心から思ったことによって消え去っていった。
「アイスうっま。」
No.1 _ルール_