今私がいくら願ったところで…
今私が気づいたところで…
それは、届かぬ想いなんだ。
久しぶりに先輩の匂いを思い出した。校舎の桜が満開に咲き、散り始めている時だった。いつも通り私はセクションごとの練習に励んでいた。やる気もクソもないので私はボーッと桜を眺めた。桜は春風に舞っている。少し眩しい太陽の光。単調な足音。春風に運ばれてくる匂い。…わかる。覚えている。この景色、この匂い、この記憶。ちょうど1年前に同じ時間に見たあの光景。私の目の前を走り去る1人の男の人がいた。先輩。ひと時、ほんのひと時だった。私の目には確かに先輩が見えた。
「ありがとう」
たった一言。聞き覚えのある声に、見覚えのある笑顔。気づいた時には先輩はもういない。探しても…どこを探しても私一人だけ。舞い散る桜の中に隠れて私は涙を流した。
モノクロ。モノクロ。モノクロ。映る景色はモノクロである。全てがこの状況だから気だるさが残るのも仕方ない。しかし今日は特にだるい。具合が悪いわけでもないのだが、涙を流したせいか頭がボーッとするんだ。練習はやっとのことで終えたのだが未だに私は競技場の人工芝から目が離せない。
「学年委員に入ったのも…も全部お前のせいだ」
「うわぁ!」
髪をくしゃくしゃにされて人工芝から目を離すことができたのはいいんだけど、よりによってそれが幼馴染くんだったとは思わなかった。
「髪…くしゃくしゃ。学年委員…と…あと…なんて、、、言った?」
「なんでもねぇよ。ってかどした?今日、体調良くない?」
「…ううん。別になんでもない」
「そう?あ、ズック穴空いてんじゃん。今日の記録とか調子、どうだった?」
君はいつもよりもそばで私に話し始める。心が空っぽで何もする気なかったんだけど、君の声に応えるかのように体が反応してしまう。君の匂いや声に安心してしまうのはココ最近ずっとだ。もういっその事君の体に身を委ねたい。抱きしめられたい。そう考えてしまうほど私はボーッとして疲れていた。甘えたい時間がこれほど長く続くのは君が私にかまうからだ。もう…
「あ……えっと。ごめん…なさい。でした。」
君の袖を掴んでしまった。
「でした?笑 やっぱり今日なんかおかしいぞ」
君が優しくするからついしてしまっただけなのにそんなに笑わなくても…。
ー君の匂いが頭の中にずっと残ってんだアホたれー
神様へ
暖かさを含んだ春風が桜の花を運ぶ季節となりまし
た。さて、神様はいかがお過ごしでしょうか。
私は大人な訳でもその辺にいるガキでもないのですが、まだまだ未熟な学生ですので、学生らしい素直な手紙を神様へ送りたいと思います。
今回手紙を送ったのは少し悩みがあったからなんです。まずは、先輩と幼馴染くんのこと。神様が何らかの魔法で私が先輩を好きになるように仕向けた訳でもないのはわかっています。私のことを好きになるようにと幼馴染くんに呪いをかけた訳でもないということもわかっています。それでも私は不思議なんです。私が先輩と少し上手くいってもそのすぐ後には距離ができる。というのも、幼馴染くんにキュンとさせられてしまうのです。私にイタズラしているのか、先輩にイタズラしているのか、幼馴染くんにイタズラしているのか、私は何があったのか知りたいのです。
もう1つは私自身のこと。私のことを病に陥らせておいて正直憎んでいました。自ら命を絶とうとしていたことも多々あったかと…。ですが、そんな私のことも好きになってくれる方をそばにおいて頂いて大変嬉しく思います。ですが、その幸せなはずの家庭が今、崩れようとしているのです。父と母の仲が年々、積み重なるごとに悪くなっていくのです。そして、ついには離婚の話まで出てしまって…。これもまた運命なのでしょうか?今まで通りなんとか上手くやっていくことは…そんなENDは存在しないのでしょうか?私は今、どうすればいいのでしょうか…
快晴。そう、今は君がいるだけで快晴なんだ。
「あ〜!!たかがTSマークで?なんで承諾得られないんだよぉ!…もう、ヤダ。」
そんな事をつぶやく私の近くを君は通り抜けて行った。あぁ、君はもう私のクラスにはいないんだった。君に話したいのに…君に話しかけられない。誰がこんな悪魔みたいなイタズラを?少し胸の奥が苦しい気がして息が詰まるんだ。私が何度君を呼ぼうとしても
「…あ。き…みぃ」
「…ねぇ」
「…ぁ。」
「……」
君は振り返らない。私に関わりたくない…のかな。
ところが、そうではなかったらしい。委員会組織会でのことだった。君は私に予定表の紙を渡してきた。
「話早すぎてどこに何書けばいいのかわからん」
「私が書いてあげよっか?」
「頼む」
斜めの席のくせにコソコソと話す私たち。私は君の予定表の書き直しや付け足しをした。もちろん、それで終われるはずはない。今までの寂しさを君の予定表に全部ぶつけた。というのも、落書きをしただけなんだけれど。君は私の様子を察して手を振ったり小さな声をかけたり…でも私は止めなかった。
ー🐼あげたキーホルダー、大事にしてね(笑)🐼ー
最後に書き残して君に渡した。
「…うっせー」
君らしい。とても愉快だ。私の心は今、快晴なんだ。組織会が終わると君は私の席に来るんだ。
「…全部お前のせいだ。お前が学年委員やろうって…言うから」
「私のせい?無理に…とは言ってないし、そもそも君だけに言った訳じゃないし。」
クスクス笑う私に友達が加わって
「これから部活で一緒に帰れないから、お前、送ってけよ!ちゃんとこの子と一緒に帰ってね^-^」
ということで私たちは一緒に帰ったんだ。君は最後に
「全部お前のせいだ。ばぁーか」
と一言。
ー君だって…よっぽどバカじゃないか…ー
遠くの…もっと遠くの空へ飛べたなら、先輩の元に会いに行けるのかな。
先輩は県内の学校だけど、遠いところに行ってしまった。私の力ではそこへ行くことさえできやしない。何故って?それは…簡単なことさ。「学生」だから。そんなに大人なわけでもないし、親がいないとどこへだって行けないんだ。もちろん、先輩の元へも。
鳥にでもなって空を自由に飛べたなら、私は何も考えずに先輩の元へ向かうだろう。鳥なら姿もバレずに済む。スズメくらいの可愛さがあったら、まっすぐ先輩に懐くつもりだ。先輩に可愛がってもらっていつでも先輩のそばにいる。欲を言えば飼われたいかもしれない。
でも、やっぱり先輩がいない部活には…いつになっても慣れないかな。
君への気持ちを…私は、言葉にできない。
「ねぇ、きぃーみぃー!一緒に学年委員やらない?」
「…めんどい。図書委員やりたい」
「えぇ!?そ、そこをなんとか…おねがぁい(うるうる)」
チャイムが鳴った。なんで今こんなことをしているのかと言いますと、学年委員を1人でやりたくないがために道連れにしようとしているからです。幼馴染くんは相変わらず冷たいし、他の女子もみんな引いちゃうし…。一体どうすれば?私1人でやる他ないのでしょう、きっと。
私は副学級長となった。話し合いでは積極的に学級長を助け、優秀さを保とうと頑張っています。そして、一日の終わりを締めくくる部活。ちょうど話し込んでいた男子に問いかけた。
「あのさ、学年委員って誰になったの?」
「んーとさ、学級長が…」
「へぇ。まぁ、あんまり変わってないかもね」
「まあな。」
「書記は?」
「それは…(ニヤ)アイツだよ。」
指が指す方向は幼馴染くんだった。
「え?…は?え、君が書記になってくれたの!?え、待って、マジで嬉しいんだけど」
君は照れ隠しをするようにそっぽを向いたが私のその時の嬉しさは言葉にできないほどだった。
ーきぃみぃ!本当は素直じゃんー