脳裏に願いを
・脳裏に願いを込めて、言葉にして、何回も唱えるように呟く。すると行動に繋がり、やがて運命をも変える。
歴史上の有名な偉人はそのようなことを言っていた。
・では、私もより素晴らしい人生への第一歩として、脳裏に願いを込めてみよう。
一生健康でいられる。
セミリタイアできる。
大切な人と自由に過ごせる。
これが現実なら私はこの上なく幸せだ。
・だが、脳裏に願いを込めることにばかり意識すると、脳は疲れてしまう。
なぜなら、がむしゃらに良いことばかり考えると、悪いことも思い浮かんでしまうからだ。それを止めようと無理やり良いことを考えると、さらに疲れるだろう。
そういう時は悪いこと考えてたって良いじゃないか。人間は陰と陽で出来ているのだから。悪いこと考えてても、いつかは良いことを自然に考えれるようになるさ。
そんな感じで、マイペースに良いことを脳裏に留めておくのが、すんなりと願いは叶いやすいのだ。
空想遊話 『月食の光』
皆既月食が夜空の真上で起こっていた。
淡い白金色の月の弓が細くなり、月が夜空に隠れた。そして夜空の影から少しずつ月が顔を出す。その月光は意外にも強く、周りの雲を照らし、月全体の影が茶色く映し出されていた。
正に空は月を食べていた。空に訊いてみたい、月とはどんな味なのか。もし月見団子のような味ならば、私も食べてみたい。
そんな他愛もない想像を膨らませては、月見団子が食べたいなんて気持ちが強まった。丁度、大福があった。月見団子代わりに食べようではないか。
家に戻った途端、違和感を覚えた。
違和感どころか、明らかにおかしい。玄関に小さな足跡があった。部屋の中は、テーブルの上が少し荒らされていた。
誰かが入ってきたのか?
念のためバットを持ち、部屋の中を探した。すると、カーテンがゆらりと揺れたのが見えた。
意を決して勢いよくめくるが、何もない。まさかあの時のあいつかと思い、下を見るが、何もない。
取り敢えず安堵。…してる場合ではないが。
他もくまなく探したが、侵入者らしきものはいなかった。
何だったのだろう。気持ちが悪いが、何も盗まれてはいないようだし、散らかったテーブルを掃除し、大福を持ってもう一度外に出た。
月は半分顔を出し、さらに夜空を明るく照らした。
その空の下で、家のテーブルの下で、一人の小人が姿を現した。
楠雄である。楠雄は部屋の中をゆっくりと眺め、何かを確信するように小さく頷いた。
“久しぶり。月の光のお陰で君に会うことができた。元気そうで良かった。でも、僕が君に会ったら君は拒絶するだろうね”
楠雄は悲しげに、夜空へと去っていった。
※あの時のあいつについては、
短い小説 『カーテン』を参照。
あなたとわたしの違い
・私は貴方に憧れている。仕事もてきぱきできて、誰とでも仲良くなれて、器用に生きている。
対する私は何もできず、打ち解けれず一人で悩んでばかり。踏んだり蹴ったりだ。
・貴方と私の違いは何だろう?纏めてみるか。
貴方 私
常識人 世間知らず
笑顔が多い 真顔が多い
勉強好き 勉強嫌い
仕事を先に片付けれる 仕事は後回し
要領が良い 要領が悪い
細かいこと気にしない 細かいこと気にする
自力本願 他力本願
拘らない 拘り強い
自分を持ってる 他人に流されがち
…何だこりゃ。
まるで良い言葉と悪い言葉を分けてるみたいだ。
悲しくなってきた。
泣きそうになった私に、誰かが手を差し伸べてきた。
顔を上げると、憧れの貴方がいた。
・貴方は言った。“私は貴方がいたから頑張れたんだ”と。
私は涙が止まらなかった。私は深刻に考えすぎてたようだ。
短い小説 『悲しみをそそる』
上海の、海がよく見えるとあるカフェにて。
一人の金髪の20代の外国人男性がそこで寛いでいた。上海料理は格別に美味しいという話を聞き、いつか行ってみたいと思っていた。念願の夢が叶い、今好きなことをしまくっている。上海料理もこれでもかという程堪能した。上海ガニの旨いこと。あの味は一生忘れないだろう。
夜の一服として寄ったこのカフェで、大好きなコーヒーを飲みながら上海の海の景色を眺める。これもまた素晴らしい思い出となるだろう。我ながらとても贅沢な旅行をしているなと思った。
注文したコーヒーは、深煎りマンデリン。重厚なコク、やや強めの苦味。ほんのりとシナモンの香りが漂う。純粋な茶色が、飲みたい気持ちをそそる。
そそる……
そういえば、この茶色、あいつの髪色と同じだな。
あいつは髪だけじゃなく、顔も仕草も可愛くてとても良いやつだった。いつもはツンとしてるけど、本当は照れ屋で一途なやつで、俺のことしか見なかった。あいつとの時間は幸せだった。この旅行より。でも、いつからか、どうしてなのか、すれ違いが起こって、いつの間にか喧嘩ばかり。
でも、今は後悔しかない。別れを切り出したのは間違いだったかもしれない。
そうだ、この旅行は悲しい気持ちを忘れるために行ったんだった。でも、あいつのことを何も考えずに一人で楽しい思いして、何やってんだろ。
コーヒーに小さな波紋が広がった。気づけば泣いていた。涙でコーヒーが酸っぱくなったが、そんなことどうでも良かった。
彼の背中は哀愁と悲哀に満ち溢れていた。
鏡の中の自分は自由
・鏡は現実によく似たメルヘンな世界である。
そのメルヘンな世界では、鏡に映った自分が何をしても他の人に責められることも白い目で見られることもない。
だから、自分のやりたいようにできるし、なりたい自分にいくらでもなれる。
今日も鏡に映らない現実の本領に足を踏み入れる前に、鏡で最高の自分を創り上げる。戦場に向かうには、万全の準備が必要である。
・鏡は便利な道具であるが、危険な道具でもある。
鏡に映った自分に向かって話しかけ続けると、ゲシュタルト崩壊を起こす。さらに、鏡にお辞儀して横を向くと、降霊が成立する。
さらに、鏡の中の虚像は時に意思を持ち、こちらの者に対して反撃してくることもあるそうだ。
私も、鏡を誤って使えば、鏡の中の自分が暴走するのかと思うと冷や汗をかく。
私はこれらに気をつけ、鏡という便利なものを安全かつ有効的に使おうと思う。そして、鏡の中の自分を大切にしていきたい。