komaikaya

Open App
4/2/2026, 3:00:55 AM

 はー、昨日の『エイプリルフール』は、楽しかった!

 フォトウェディング──写真だけの、結婚式。
 二人でスタジオに行って、レンタルのドレスとタキシードに着替えて、顔も髪も整えてもらって。

 思えばわたし、ずっと笑いっぱなしだったな。

 だってさ。
 お互いにお互いの格好を、茫然と見つめて──見惚れてしまったりとか?
 お互いのそんな反応が、なんだか無性~~に、照れくさくなってしまったりだとか?

 そういうことを二人して、同じタイミングで感じてる、なんて……その嬉しさと可笑しさに耐え切れずにわたしは、盛大に吹き出してしまった。

「……笑いすぎだろ」

 って、ボソリと言うもんだから、それでまた可笑しくなっちゃって。
 もうほとんど、そのままの顔で撮られちゃった!
 カメラマンさんにも「花嫁さん、いい笑顔ですね!」って言われたからね、まぁそれでよかったんだけど。

 スタジオのスタッフさんたちに、わたしたち、「おめでとうございます」「お幸せに」って、本当にたくさん言われたよね?
 あれはなかなか、嬉しかったなぁ。
 祝福される、ってのはこういうことなんだ、って……しみじみ、思った。

「写真出来るの、楽しみだね! お父さんとお母さんにも見てもらいたいなー。今度、夏に行くときに持っていこうね!」
「え? っ、ああ、いや……二人とも驚いて、墓から起き上がって来ねぇかな」
「フフッ、なにそれ? 大丈夫だよ、なーんちゃって、エイプリルフールでー、嘘の結婚でしたー!って、言えばいいだけだもん。計画通り、でしょう?」
「……どっちにしても俺は、殴られそうなんだが」
「えー? そうかなぁ?」
「そうだよ」

 結婚が嘘でも、嘘じゃなくても、殴られる?
 わたしは、そんなことないと思うけどな。

「お父さんも、お母さんも。そういうことの前に、とにかく幸せになってくれればいい、って言うと思うよ?」
「そりゃ、都合のいい考え方だな」
「っ、もう! なかなか譲ってくれない頑固なところは、どっちからの遺伝? 夏に行ったら、文句言わなくちゃ!」
「お前な。それはそのまんま、お前のことでもあるからな?」
「えー? わたしは、そんなに頑固じゃないもん」
「いやぁ、それは……」
「っ、なんで、それも譲ってくれないんだ? っとにもう、ムカつくー」
「フッ。まぁ、怒るなって」

 大好きな人に、わたしの大好きな、その大きな手で、頭を撫でられる。
 その心地よさが嬉しくて、また笑ってしまう。

 頑固……うん。
 でもまぁ、そうかもね。
 わたしはどうしても、譲れなかったんだもの。

 この世界の秩序が、どんなものであっても。
 わたしは、わたしのいちばんの大好きを、絶対に譲れなかった。

 お兄ちゃん──わたしの、いちばんの大好き。

 ……うん。やっぱり、どうしたって譲れないや。
 でも、それでもいいって、わたしとずっと一緒にいてくれるって、お兄ちゃんは言ってくれたから。

 ね。そうだよね、お兄ちゃん?

4/1/2026, 9:34:58 AM

「勝手な言い草だけど。フミカには、『幸せに』なってほしい」

 それが彼の、私へ向けた最後の言葉で──私はあのとき、なんと返事をしたのだったか。

 彼の転勤で遠距離恋愛になるから、という理由で、あっさりと終わった関係。
 いやそれさ、絶対、遠恋が理由じゃないよね? って、胸ぐら掴んで問い詰めてやりたかったけれど、よく考えたらこちらも、それをするだけの気力なんてなかった。

 そうか、そんなもんだったんだ。
 私の、彼に対する気持ちも。

 ──で。
 あれから一週間、私がこうして、モヤモヤしたものを抱えっぱなしで過ごしてるのは、そりゃもう必然のこと……なんだけど。
 彼の、あの最後の言葉が脳裏をよぎるたび、私の抱えたモヤモヤはその濃さを増し。

 モヤモヤを振り払いたい私は毎晩、彼と別れた帰り道に勢いで買ったボトルのウイスキーをハイボールにしてあおり、けれどあのセリフの脳内再生が止まないものだから、ついにウイスキーのボトルが空いてしまったのだった。

 ……ってか、さぁ。
 ナオトの言う『幸せに』ってのは、私が、どういう状態になることを言うのよ?
 あれでしょ? 自分が振った女が不幸だと、なんか目覚めが悪い、くらいの……別れ際の社交辞令としても、まぁまぁイイ感じに聞こえるし?

 ナオトはそれで、一応は今後の幸せをお祈りしてあげたつもりの私のことを、そこですっかり吹っ切って、新しい生活、新しい人生に向かって、まっすぐに前を向けるんだから──。

「……フン」

 思わず鼻で笑ってしまったけれど、マスクの下なのでセーフ。
 それよりそろそろ、どのウイスキーを買って帰るのか、決めなくてはならない。

 カゴにはすでに、このスーパーでよく目が合っていたのに手を伸ばせなかった、ちょっとお高いチーズが入っていて。
 このカゴにはこれから、どんな味かな、ってワクワクしながら選んだウイスキーのボトルや、お惣菜コーナーのチキン、それからスイーツが入る予定で……。

 ああ──ほら。
 私ちゃんと、幸せじゃないか?

 なのにあのときの、そしていまの私が、まるで幸せじゃない、みたいに言われるのは、
 それはやっぱり、おかしい、って……思うんだよね?

「えーい。余計なお世話だ、コンチクショー」

 ……とは、ちゃんと自宅で、ハイボール片手に言った。
 その、1300円のボトルで作ったハイボールはまぁまぁ好みの味、チーズとチキンは大当たりだった。

3/31/2026, 8:59:20 AM

 ボクは『何気ないふり』なら、結構得意なんです。

 鍵のかかってない部屋のドアをちょい、と前足で押して、開いた隙間にひゅるん、と体を滑り込ませて。
 見上げるとお姉ちゃんはベッドで、こっち向きに横になっていて、でも眠ってなくて、ぼんやりと宙を見てる。

 ボクはそこで、すぐにベッドの上に飛び乗って、お姉ちゃんの顔に擦り寄ったり……は、しないんだなぁ。
 まずは、ひと伸び。前足を揃えて腰を後ろに引く、その後、後ろ足を一本ずつ、指と爪もきゅーっと開くようにして伸ばして──そうしながら、お姉ちゃんの視界に、ちょっとずつ入ってゆく。

 たまたま……そう、本当にたまたま、通り道だったんでね? って感じ、間違っても、お姉ちゃんが元気なくって、シンパイだったのーっ! って態度を、おくびにも、尻尾にも出してはいけない。

 ボクが部屋に入って来ても、お姉ちゃんの反応はなくって、でもそんなのは想定内。
 お姉ちゃんの視界の端っこ、お姉ちゃんの世界の片隅にボクは、そうっとお邪魔する。

 ベッドの下のラグの上で、お姉ちゃんの方を向くようにして座る。前足をすっかり丸める、いつだかお姉ちゃんが「すっごく、四角だね!」って言いながら笑ってたあの体勢で、お姉ちゃんの部屋の一部になりきるのだ。

「……コテツ」

 明るかった部屋がちょっと暗くなってきた頃。
 ようやくボクの名を口にしたお姉ちゃんに、ボクは、耳だけで反応してみせる。

「コテツ、おいで?」

 お姉ちゃんの白い腕が、掛け布団からにゅう、っと伸び出てきて。そうやって手招きをされたなら、ボクは応じてもいい。
 でも、飛びついたりなんか、しない。部屋に入ったときのように、自分の体を伸ばしてやりながら、ゆっくり、ゆっくりお姉ちゃんに近づく。

 ベッドの上の、お姉ちゃんが空けてくれたスペースに、ボクはひょいっ、と飛び乗る。お姉ちゃんの白い指がボクの鼻先に触れ、ボクはお姉ちゃんの匂いをスン、と確かめ、それからペロン、とひと舐めする。

「……フフッ」

 お姉ちゃんが緩ませた口元に、ボクはボクの顔をすり寄せ、そこからは思う存分、お姉ちゃんに甘えまくる。

 お姉ちゃんがボクを愛でてくれないとね、ボクも──この世界から、いなくなっちゃうんだから。

 それをちゃんとわかってもらうためにも、ボクは……ボクたちは。

 『何気ないふり』は、ね。
 まぁまぁ、得意なんだよ?

3/30/2026, 7:50:43 AM

<登場人物>
 カナエ:高校生(腐)女子。
アイザワ:大学生男子、カナエの家庭教師。


「……うん。合ってる、よく出来ました。よし、じゃあ今日は、ここまでかな。なにか質問はありますか?」

「アイザワ先生、身長は何センチですかー?」

「175センチでーす、ってカナエさん、そうじゃなくて勉強の、」

「そっちはないから、いっかなーと思ったの! そういえばこの前も、バッタリ会っちゃったよねー。またキシダさんと二人で、並んでこっちに歩いてきて……キシダさんの身長は、何センチですかー?」

「アイツは確か185、って……」


(アイザワ’s heart)
 ──カナエちゃんやっぱり、キシダ狙い?
 キシダの身長知りたくて、俺のから聞くとか……。
 フフッ、ちょっとカワイイじゃん?

(カナエ’s heart)
 ──よしよしよしよし、よーし。
 それぞれのプロフィール、充実してきたぁ!
 ふんふん、10センチ差か、なるほど……。


「そっかー、うん。先生ってばキシダさんのこと、軽く見上げてたもんねー」

「っ、そりゃ……そうなるよ、アイツのほうがデカいんだから」

「え、あれ。先生背低いの、気にしてた?」

「いや、そういうわけじゃないし。でも175はそんなに低くないよね?」

「うん。そんなに低くないよ?」


(アイザワ’s heart)
 ──んん? なんか、ニヤニヤしてる……?
 や、そりゃ……ちょっとだけ、気にはしてたけども!
 ってかカナエちゃん、それ見抜いて俺をディスりたかっただけ、だったりする?

(カナエ’s heart)
 ──ちょっ、やだ、先生ってば!
 ナニソレ、もう……かーわーいーーー!!
 うんうん、気にしてたんだよねっ、キシダさんとの差にちょっとイラって、「そのうち追いついてやるからなっ」とか、ゆっちゃう? ゆっちゃってるのっ? ハァ尊いわー……こんなの、筆が進んじゃうから……。

 先生、待ってて! 二人のこと、私……『ハッピーエンド』迎えるまで、ちゃーんと書くから、ねっ?



(ご興味ある方は『My Heart』もどうぞー)

3/29/2026, 9:35:06 AM

 眼鏡越しだっていうのに──「俺に愛されてるって、わかってるだろう?」と言わんばかりの、あの目が全部、いけないんだと思う。

 彼に『見つめられると』本当に、どうしたらいいのか、わからなくなってしまって。この「わからなくて怖い」状況から逃れたくて、彼との距離を少しでも稼ぎたくて、でも彼から目を離せずに背を向けられないまま、じりじりと後退する。

「……逃げたく、なっちゃった?」

 ふいに──優しい声で、問われ。
 私はハッとして、それから、足にグッと力を入れて、その場に踏み止まった。

「っ、ごめんなさい。もう、逃げません」

 この先を期待して彼を自分の部屋に上げたのは、他ならぬ私、なのだ。

 なのに。とにかく、動悸が止まないし、止まないし、止まないし──自分の体が、自分のものじゃないみたいな、地に足が付いてないようなこの感覚を、どうしたらいいのかわかんなかったけど、でも。

 もう……逃げたく、ない。
 私だって彼と、この先に……。

「……あ」
「え? ……あっ。私、これ……鼻血?」
「おっとっと、ほらティッシュ、押さえて!」


☆ ☆ ☆

「……つまり。俺の眼力のせいだ、と?」

「ううっ、ごめんなさい! 鼻血なんて私、こんな、のぼせちゃうなんて……あーもうっ」

「べつに謝ることないし。じゃあ、まぁ……それならさ、よいしょっと。……こういう、バックハグなら、どう? こうやって後ろからだったら、俺の目、見えないだろうし?」

「っっ?! 〻£⁂⌘$<%〆#!!」

Next