ボクは『何気ないふり』なら、結構得意なんです。
鍵のかかってない部屋のドアをちょい、と前足で押して、開いた隙間にひゅるん、と体を滑り込ませて。
見上げるとお姉ちゃんはベッドで、こっち向きに横になっていて、でも眠ってなくて、ぼんやりと宙を見てる。
ボクはそこで、すぐにベッドの上に飛び乗って、お姉ちゃんの顔に擦り寄ったり……は、しないんだなぁ。
まずは、ひと伸び。前足を揃えて腰を後ろに引く、その後、後ろ足を一本ずつ、指と爪もきゅーっと開くようにして伸ばして──そうしながら、お姉ちゃんの視界に、ちょっとずつ入ってゆく。
たまたま……そう、本当にたまたま、通り道だったんでね? って感じ、間違っても、お姉ちゃんが元気なくって、シンパイだったのーっ! って態度を、おくびにも、尻尾にも出してはいけない。
ボクが部屋に入って来ても、お姉ちゃんの反応はなくって、でもそんなのは想定内。
お姉ちゃんの視界の端っこ、お姉ちゃんの世界の片隅にボクは、そうっとお邪魔する。
ベッドの下のラグの上で、お姉ちゃんの方を向くようにして座る。前足をすっかり丸める、いつだかお姉ちゃんが「すっごく、四角だね!」って言いながら笑ってたあの体勢で、お姉ちゃんの部屋の一部になりきるのだ。
「……コテツ」
明るかった部屋がちょっと暗くなってきた頃。
ようやくボクの名を口にしたお姉ちゃんに、ボクは、耳だけで反応してみせる。
「コテツ、おいで?」
お姉ちゃんの白い腕が、掛け布団からにゅう、っと伸び出てきて。そうやって手招きをされたなら、ボクは応じてもいい。
でも、飛びついたりなんか、しない。部屋に入ったときのように、自分の体を伸ばしてやりながら、ゆっくり、ゆっくりお姉ちゃんに近づく。
ベッドの上の、お姉ちゃんが空けてくれたスペースに、ボクはひょいっ、と飛び乗る。お姉ちゃんの白い指がボクの鼻先に触れ、ボクはお姉ちゃんの匂いをスン、と確かめ、それからペロン、とひと舐めする。
「……フフッ」
お姉ちゃんが緩ませた口元に、ボクはボクの顔をすり寄せ、そこからは思う存分、お姉ちゃんに甘えまくる。
お姉ちゃんがボクを愛でてくれないとね、ボクも──この世界から、いなくなっちゃうんだから。
それをちゃんとわかってもらうためにも、ボクは……ボクたちは。
『何気ないふり』は、ね。
まぁまぁ、得意なんだよ?
3/31/2026, 8:59:20 AM