「勝手な言い草だけど。フミカには、『幸せに』なってほしい」
それが彼の、私へ向けた最後の言葉で──私はあのとき、なんと返事をしたのだったか。
彼の転勤で遠距離恋愛になるから、という理由で、あっさりと終わった関係。
いやそれさ、絶対、遠恋が理由じゃないよね? って、胸ぐら掴んで問い詰めてやりたかったけれど、よく考えたらこちらも、それをするだけの気力なんてなかった。
そうか、そんなもんだったんだ。
私の、彼に対する気持ちも。
──で。
あれから一週間、私がこうして、モヤモヤしたものを抱えっぱなしで過ごしてるのは、そりゃもう必然のこと……なんだけど。
彼の、あの最後の言葉が脳裏をよぎるたび、私の抱えたモヤモヤはその濃さを増し。
モヤモヤを振り払いたい私は毎晩、彼と別れた帰り道に勢いで買ったボトルのウイスキーをハイボールにしてあおり、けれどあのセリフの脳内再生が止まないものだから、ついにウイスキーのボトルが空いてしまったのだった。
……ってか、さぁ。
ナオトの言う『幸せに』ってのは、私が、どういう状態になることを言うのよ?
あれでしょ? 自分が振った女が不幸だと、なんか目覚めが悪い、くらいの……別れ際の社交辞令としても、まぁまぁイイ感じに聞こえるし?
ナオトはそれで、一応は今後の幸せをお祈りしてあげたつもりの私のことを、そこですっかり吹っ切って、新しい生活、新しい人生に向かって、まっすぐに前を向けるんだから──。
「……フン」
思わず鼻で笑ってしまったけれど、マスクの下なのでセーフ。
それよりそろそろ、どのウイスキーを買って帰るのか、決めなくてはならない。
カゴにはすでに、このスーパーでよく目が合っていたのに手を伸ばせなかった、ちょっとお高いチーズが入っていて。
このカゴにはこれから、どんな味かな、ってワクワクしながら選んだウイスキーのボトルや、お惣菜コーナーのチキン、それからスイーツが入る予定で……。
ああ──ほら。
私ちゃんと、幸せじゃないか?
なのにあのときの、そしていまの私が、まるで幸せじゃない、みたいに言われるのは、
それはやっぱり、おかしい、って……思うんだよね?
「えーい。余計なお世話だ、コンチクショー」
……とは、ちゃんと自宅で、ハイボール片手に言った。
その、1300円のボトルで作ったハイボールはまぁまぁ好みの味、チーズとチキンは大当たりだった。
4/1/2026, 9:34:58 AM