「ねぇ、ボクのこと……『もっと知りたい』?」
「あー……えーと。まずは、これから転生するっていう、この世界のことが知りたい、かな?」
上下左右のどこを見渡しても、真っ白な空間。
突進してきた暴走車を避けようとして崖から転落死したという、とっても残念な前世を終えたばかりの私は、目の前にフワフワと浮かんでいる、光を放つ球体に言った。
「なんでー? そんなの、後ででもよくない?」
「いやぁ……」
さっきの自己紹介によると、球体の彼はこの世界の神様らしいんだけども。
でもね……この場所で気がついた私に向かっての第一声が、
「初めましてー! 単刀直入に言うけどさ、ボクのカノジョになって欲しいんだっ」
って、さぁ……ホント、なに言ってんだコイツ、ってなった。
でもしょうがない、状況を把握するために質問を繰り返して。
そしてようやく、ここが次元のハザマ的な場所で、私はなんだかんだでこれから異世界に転生しなくちゃで、その説明なんかのためにここに呼ばれたってことがわかって、やっとやっと、頭が働くようになったところなのだ。
頭、が……うん、いまここにいる私って、肉体、ないっぽいんだけどね?
にしても、この状態でナンパされるって、いったい?
あ、待てよ……そうか。
きっと「カノジョ」の意味が、なんか違うんじゃないかな?
「……あのぅ」
「うん、なぁに?」
「カノジョってのは、どういう意味、なのでしょう?」
「あれ? ボクはいま、キミがさっきまでいた世界の言葉を使ってるはずなんだけど。つまり、ボクはキミのことが好きだから付き合ってくださいっていう、そういう意味だよ? これなら、伝わる?」
「…………」
……えーと。
この状況で告白されたらこうしたほうがいいよ、っていうアドバイス的なのを『もっと知りたい』んですが……?
どっかにスマホ、落ちてないかなー?(切実)
彼女と僕の『平穏な日常』、なんてものは。
取るに足らない、本当にちっぽけなことで、波立ってしまうものなのだ。
「あ、おでこの、ここンとこ。このヘンになんか、できてるよね?」
「っっ! ……っ、もうっ、なんで……」
「ん? どした?」
「……フキデモノ。朝からさ、できちゃったなぁって、気にしてたの! なのに、そんなふうに……っ、あ〜〜〜、もうっ!」
「え、え、なんで、」
「気づかれたくない人には、気づかれたくないの! そのくらい、わかって欲しかった」
と、苛立った声の彼女が言い……。
そう。どうやら僕は、そのちっぽけなフキデモノには、見て見ぬフリをしなければならなかったらしく。
「えーと。いや……疲れてるのかな、って」
「………………」
パンとかベーコンエッグとか、いつもの朝食が並んだ食卓越しの彼女は、無言のまま。
ちょっと涙目になってて、むくれ顔で……あーあ。
僕たちの平穏を奪った、フキデモノの野郎……と。
僕は僕の失言を棚上げにして、この瞬間、この世の誰よりも、彼女のおでこに突如出現したフキデモノを恨む。
こうなってしまった彼女への完璧な対処法を、僕は未だに見つけられてないのに──。
「今日さ。夜はなにか、外に食べに行こうか?」
「……こんなのができちゃってるのに、外に行くのヤダ」
……はい、失敗。
こんなときどうしたらいいのか、AIにでも訊いてみようか?
んー……たぶんだけどさ、『愛と平和』を受け入れることってのは、それらに反発するよりもスゲェ難しいことなんじゃないかなぁって、例えば職場で気に食わないヤツと同じ空間にいるだけで胸ン中がザワザワしてイライラが隠せなくなったりするオイラとしてはだな、そーゆうのが受け入れられない奴のほうが世の中にはたくさんいるんじゃないか……ってね、思うから。
だからー、まだ「ラブアンドピース」ってモンを受け入れらんねぇ奴には、オイラも含めてだな、「まぁ頑張ろうぜ」って……な?
うん、そうだ。「頑張れ、頑張れ」って、注射を怖がってるちっちゃい子やワンコに言い聞かせるみたいに、とにかく励ましてやるし、そんでその怖い注射を頑張って受け入れた奴にはちゃんと「おまえ‼︎ あんなに嫌がって、怖がってたのによくやった、ちょースゲェじゃん‼︎」って、ホメちぎる準備だってしとくから。
だーかーらー。いま世界中で派手に「ラブアンドピース」に反発してるどいつもこいつも、もうちょっとだけさ、頑張ってみない? って言うからにはオイラも、職場でクッソ気に食わない奴がいても、もうちょっとだけ頑張ってみるから……って。
……あれ?
これってなんだか、上から目線ぽくね?
だってよ。どいつもこいつも、頑張ってねぇってわけじゃねぇだろ? それをなんか、どいつもこいつもが、まるで頑張ってねぇみたく……。
っとに。何様なんだよ、オイラって奴は!
えーはい! どうも、すみませんでしたー‼︎
んー……でも、さ。
この際言っとくわ、「頑張れ、頑張れ」って。
「頑張ろうぜ、お互い」って意味を込めて。
こんな独り言なんか、どこにだって届くわけなんかないんだけども。
そんでもいいから、独り言みたくつぶやいてたいだけ……ただそれだけ、なんよ?
『過ぎ去った日々』は共に追憶する人がいなければそのうち、容易に思い出せなくなる。それはその記憶へと至る神経接続を強化し続けるから、ということなのだろうが、それを知りながら、辛い記憶ばかりを忘れられないのは何故だろう? などと首を傾げてしまう、記憶を誰とも共有せずとも繰り返し、繰り返しその記憶の再生ボタンを押し続けているのは、他でもなく自分自身であり、けれど自身だけではそれを止められなかったりもするから、本当に厄介だ。
それはもう過ぎ去ったこと、過去のことなのだ、と傷つけた相手に思ってもらえるには、どれくらいの時間が必要なのだろう? そしてそれは「許される」と同義になるとは限らず。
それでも。傷つけられた強くて優しい人は、許せないけれど過ぎ去ったこととするし、許さないけれど復讐や報復をしない。
そのことがその人の「強さ」だとか「優しさ」なんかで片付けられてしまわないように、どうかその人が報われますようにと、遠く及ばないけれど自分もその人みたいになれますように──そう願いつつも私は偽善者であるから、同時に「どうか自分の罪が許されますように」とも、しっかり願うのだ。
──と。
こんな矛盾ばかりの落としどころの無い雑文を最後まで読んでくれた優しいアナタがこの世にいることで、私は勝手に「許された」ような感覚を得る。承認要求を満たすことと、許されることとはまったく別のものなのにね、でも、読んでくれたことがうれしいから……ありがとう!
これまでのあらすじ:陽菜ちゃん(5歳)は転んで頭をぶつけたせいで、前世で大好きだった推し、りょーじくんのことを思い出した! 陽菜ちゃんのことが大好きで心配性なパパの協力のもと、日々推し活にいそしんでいるよ! (先月の『ブランコ』『待ってて』『バレンタイン』のつづきだよ!)
「陽菜ちゃ〜ん💕 今日は『ひなまつり』! ひなまつりってのはつまり、陽菜ちゃんのためのお祭りなんだよ〜! ……ん? これは……」
「あのね! ひな、よーちえんで、おひなしゃまつくったの〜」
「そっかそっか! うん、とってもかわいい、上手! ウチの陽菜ってやっぱり、神童なんじゃないかな……と、あれ? こっちのは、」
「りょーじくんの、あくしゅた?」
「うん。これ、りょーじくんのアクスタに、折り紙の着物着せてるのって、」
「えへへっ。あのね、おひなしゃま!」
「えーと、この水色の着物のりょーじくんがお内裏様だよね? 隣の紫色の着物着せたアクスタは、」
「いっぺーくん!」
「そう、いっぺーくん。……りょーじくんと、いっぺーくんの結婚……?」
「あっ、えっとねえっとね、けっこんとか、わかんなくって、んっとね……なかよし、なの!」
「っ、なかよしね、なるほど! なかよしさんだからかー、そっかそっか。結婚とか、陽菜ちゃんにはまだわかんないよなー、うん、わかんなくっていいんだよー、ハハハッ。じゃあ、なかよしさんをウチのお雛様と一緒に飾ってあげようか。でも、他のメンバーのアクスタは、なかよしさんの仲間にしてあげないの?」
「それは、おしかぷ……」
「ん? かぷ?」
「あわわ、えっとねえっとね、パパだいしゅき〜!」
「っっっ! パパも陽菜が大好きだよ〜💕」