お題:『星に包まれて』&『静かな終わり』
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「星に包まれてる、なんて表現したくなるような星空、いつか見てみたいなぁ」
……と、彼女が言ったから。
俺は、家庭用プラネタリウムの、ちょっといいヤツを買ったのだ。
しかしどうやら、それがきっかけで──俺と彼女の関係は、まるで付き合ってたのが夢だったかのような、静かな終わりを迎えることになった。
「うわー。『これからもいい友達でいたい』、その返事にお前、『了解』って、それだけ……?」
俺のスマホでメッセージアプリの履歴を見た工藤が、口を押さえながら、肩を震わせた。
「……笑う場面か?」
「悪い、でもお前らしいなぁ、って。それで、元カノちゃんの旅行ブログってのは……ああ、ほんとだ。さすがウユニ塩湖、360°の星空ね、すっげー綺麗じゃん! うん、まぁ……アウトドアとインドア、つまりは方向性の違い? でも元カノちゃんからしたら、このプラネタリウム……チガウ・ソウジャナイ感、凄かったろうなぁ……クッ、フフッ」
笑いをこらえるつもりのない工藤から、スマホを取り返し、俺はため息をつく。しょうがない、目的のためにはちゃんと、事情は説明しておきたい。
「まぁ……だから。この家庭用プラネタリウムはそういう"イワクツキ"ってこと、それでもいいなら、もらってくれると助かる」
部屋を暗くして、プラネタリウムのスイッチを入れ。
あの日の彼女も、微妙ながらも一応は喜んでくれた星空を、工藤に見せてやる。
俺たちはベッドに背を預けて並んで座り、しばらく無言でその光景を眺めた。
「……お前さぁ。俺のこと部屋に上げちゃうくらい、弱ってんだ」
俺が返事をしなかったのをいいことに、暗闇の中で工藤が、距離を詰めてきた。
「こうやって慰めてやれば、コロリと……って! お前がそんなチョロいわけないよなー!」
工藤に髪をグシャグシャにされながら頭を撫でられ、「さぁ、俺の胸で泣いてもいいぞ」「バーカ、誰が泣くか」などど軽口を叩き合いながら、ふと思う。
工藤は常日頃から『お前って軽〜く俺の守備範囲なんだよね〜』などと俺に言い、俺はそれを適当に無視したり流したりして、奴も『まぁそうだよね』などと返す、それがいつもの俺らの関係で、けれど。
「飲もうぜー」
「おう」
「失恋に……あっ、青春にかんぱ〜い!」
「うるっせぇよ」
こんだけ距離を詰められても、頭を撫でられても、べつに気持ち悪さもなく──チガウ・ソウジャナイって感覚が、湧かないんだが……俺が弱ってるから、か?
いや……この件はとりあえず、棚上げにしておこう。
「ちなみに、工藤ってアウトドア、インドア、どっち?」
「ガッチガチのインドア〜」
どうやら方向性? とやらは、合ってるようだ。
はーい! こちら魔王城前でーす。
さあ、今年もやってまいりました、絶望フェス! 今回はどんな絶望が味わえるんでしょうかー?
普段は魔物の豊かな底無しの湖に囲まれている魔王城。
年末のこの時期に限って、湖がすっかり凍ってしまうのですがー。
その凍った湖の上に、大小の氷壁がせり上がってこのように、天然の巨大迷路を作り上げているんですね〜。
通称『凍てつく鏡』と呼ばれるこの迷路、ここを抜けないと魔王城にたどり着けない、というわけなんですが……ご覧いただけますでしょうか。
今年も、人間族の勇者さんたちが、続々と集まってます!
今年こそは魔王様を倒さん! と、集結した勇者さんたち。もはや年末の風物詩ともいえる光景ですね〜。
魔王様に相対するには、まず、この『凍てつく鏡』を突破しないといけません、が……さてさて。
魔王城の門前を任されちゃってます我々、夢魔一族のトラップを抜けることが出来る勇者さんが、今年こそは現れるのか、どうか……。
あっ、さっそく『凍てつく鏡』のトラップ、その名も悪夢回廊にー、まんまと囚われちゃった勇者さんがいますよ〜!
『凍てつく鏡』──ピッカピカに磨かれた鏡のような氷壁に映し出されるのは、自らの醜い真の姿や犯してきた過去の過ちなどなど、思わず迷わず絶望したくなっちゃうコンテンツが盛りだくさん! ですからねっ!
それでですね、ウフフッ。ワタクシ、レポーター特権で、出来たてホヤホヤの絶望を味見しちゃうんですが……それでは、いただきま〜す!
……んっ、むむ、ふぅん……ゴクリ、はい。
えー、とーーっても濃厚で、えっと、もうひと口……うん、やっぱり勇者さん由来の絶望は、ひと味違いますね〜、後味も深くて……美味しいですっ!
さあ、この絶望フェス、『凍てつく鏡』にチャレンジする勇者さんがいなくなるまで、絶賛開催中です!
最上級の絶望をお得に、お手軽に味わいたい夢魔のみなさーん!
ぜひ一度、足をお運びになってみてはいかがでしょーかー?
『雪明かりの夜』
寒月の光が踊る
雪明かりの夜に
雪上を一匹で
疾駆するのは
雪色のウサギ
明るい夜だ
明るい夜だ
誰もいない雪原を
飛ぶように渡って
付けた足跡になど
かまわず一目散に
行く手を阻まれず
何者にも追われず
一面の白の中に在る
真っ白なただ一匹は
幸福だとか
不幸だとか
そういう思い煩いから
遥か遠くへ駆けるのだ
じゃあ言われた通り
『祈りを捧げて』みようか
けれど
方法を知らない
祈るのと願うのは
どう違うの?
利他を偽善だと訝るお前には
永遠にわからない
祈りとは
ただ thank you って
口にするだけ
それだけなんだってことを
たぶんきっと
信じてはもらえないから
際限なく『降り積もる想い』と溢れる愛おしさ、これらはセットになっていて、その愛おしさを想いを持つ同士、お互いに与え合うことが、この感情の着地点。
なら、そういう"降り積もって溢れさせる"という流れを作れない、相手に受け取ってもらえない場合は──でも、溢れさせることの出来ない想いを必死に堰き止め、積もるものも掻いては脇へ捨て溶かそうとしたって無理で、そうこうしているうちに私は、降り積もるものは根雪へ、それでも溢れ出るものは、誰の目にも留まることのない気体へと変える術を身につけた。
私はこの片思いをこうして、熟練の技とも言える技術でもって長年続けてきたわけで、だから──。
「じゃあ。根雪から溶かせばいいってことで、なら、」
「やっ、だめ、お願いだから、ゆっくり……じゃないと決壊しちゃう、なんかおかしくなっちゃうから、」
「だーいじょうぶ。むしろ、しっかり決壊してもらわないと、こっちで受け取れないだろが」
あーあ。『♪雪がとけて川となって、山をくだり〜谷を走るぅ』なんてBGMを空耳するくらいには私、おかしくなってる……。
っていうか、なんで根雪のことなんかペラペラ話しちゃってるの? ちょこっとアルコール入れたからって、私チョロ過ぎだし、あーもう、すでにいろいろと、ドロッドロに溶けまくってて……。
「うう……両思い、コワイ……」
「え? それ、饅頭コワイってヤツ? ふーん、それならこうして、」
「ちょ……っ、待って待って、待ってー!」