それから僕は今日のお題『時を結ぶリボン』のことばかりを考えて過ごした。
ってかさー……こんなん、もはやトンチだろ? なにも思い浮かばねぇ、あーもう次のお題に切り替わるまで時間がない、時間よ止まれー、なーんて……あれ?
"時を結ぶ"は──そこに、その時点に結び目を作って、固定すること?
それってもしかして、"時間を止める"ことを意味するんじゃない?
『時を結ぶリボン』とは。
時間を止める力を持つリボンのこと、だったり?
……ってとこまで、スマホでポチポチと入力を終え、OKをポチると。
突然、「パパパパーン」という効果音が、耳に飛び込んできた。
「正解! おめでとうございます〜! 正解した方には現物を差し上げま〜す!」
どこからか聞こえてくる声にキョロキョロしていると、なんの前触れもなくハラリ、と赤いリボンが落ちてきて、僕はそれをキャッチする。
「え……ええっ?! これってそーゆーシステムだったの?」
「実はそうだったんですね〜、まー現物を差し上げられるだけのピッタリした正解は、なかなか出ないんですけどね〜。前回は『秘密の標本』のときでしたかね〜」
「マジか……」
頭が追いつかない。
てか、コイツ……この声、誰?
「じゃ、この辺で失礼します〜。この度はおめでとうございました〜」
「えっ、ちょっと?」
……と、そんなわけで。
いま、僕の手元には『時を結ぶリボン』が一本、あるのだが。
この後、これの実際の効果について記したいところであるのだが……とりあえずやってみた固結びでは効果がなかったので、どうやら蝶結びが発動条件のよう。
がしかし、僕は靴紐すら結べない──なんなら靴は全部スリップオンだし──ので、目下のところ、蝶結びを練習中。
この続報は……あー手がつりそう、もう少し時間がかかりそうです、あんまり期待しないでお待ちください!
誰もいない自習室で。突っ伏して寝ている俺の横に、いつの間にか彼女が座っていた。
顔を上げなくたってわかるくらいには、彼女の香りも気配も覚えている、それはお互いにそうで。
が、それ以上距離を縮めることが出来ない、それは俺と彼女が、ヘンなところで似たもの同士なせいだった。
「……ズルい、なあ」
寝ている俺の横で彼女は、そう独り言ち──いやそのセリフ、そっくりそのままお前に返すけどな?
お互いに、相手が決定的なことばをくれるのを待ってる、とか……先に言ったほうが負け? それって、なんのマウント?
狸寝入りを続ける俺の髪に、彼女の指が絡むのを感じる。なんとなくそれにイラついた俺は、咄嗟に彼女の手首を掴んだ。
「わ、びっくりした! 起きてたの?」
「………………」
彼女の問いを無視して、俺は彼女に向かい合うようにして起き上がった。
彼女の手は掴んだまま、その手をじっ、と見つめてみる。
あーあ、イマイチ頭が働かねぇ……ん、待てよ?
俺はいま、寝ぼけてて……例えばこんなことしたって、たぶん許されるんじゃね?
「っ! ちょ、んっ、なに?」
ぐい、と彼女の手を寄せて、その手のひらにキスをして。細く冷たい指先が驚いて引こうとするのを阻止しながら、ついばむようなキスを何度か繰り返し、そして──。
「なっなによ、なんなの、これはっ?」
「えー? えーと……なんだと思う?」
振り解いた手でバシッ、と俺の頭をはたいた彼女が、自習室を出てゆく。
チェッ、なんだよ、そんなにビビんなくたっていいじゃねーか。
俺だって、こんなふうに──誰かになにかを渡したくなったのは、これが初めてだったんだぞ?
◇
少し後で学食に行くと、自分の手のひらをぼんやりと見つめている、彼女がいて──それを見つけた俺は、思わず顔がニヤけそうになった。
フフッ、してやったり……さぁて、こっからだな?
彼女にやった『手のひらの贈り物』──その感想を俺は、どうやって問い詰めてやればいいだろう?
その薄荷色の猫はある日突然やって来て、私の『心の片隅で』暮らし始めたのだ。
ふと自分の心を覗くとそこにいる猫、ほとんどいつも丸くなって眠っている一匹の薄荷色の、その様子を見ると。
あれぇ、いま私がキィキィと怒ったりメソメソと泣いたりしてたのはなんでだっけかなぁ……と急に毒気を抜かれたような感じになる。
本当になんでだろう、あの薄荷色を見つけただけで、呼吸がスウーッと胸の奥から鼻に抜けて、気持ちがとても楽になるのだから、不思議で……ああ、いま起きて、両前足をキューッと伸ばして伸びをしている。
出来たら、もうしばらくウチの子でいてくださいね──と、私はお願いをしてみる。
でも薄荷色の猫は一つ大きなあくびをしてまたくるりと丸くなるばかり、けれど片耳をピクッとこちらに向けてくれたから、たぶん、もうしばらくは大丈夫なんじゃないだろうか。
は〜い、こんばんはっ! 僕は夢魔っち、これまで『君が見た夢』のどっかしらに登場してたんだけど、覚えてる? って覚えてないよね〜、昨日の夢で言うと、君が店員で働いてた、トラブルばっかり起こるレストランのモブ客……ま、それはいいとして?
いやこんなこと、本当は言いたくないんだけど……最近さ〜、君の夢の味、ちょっと変わったよねぇ?
君の夢の常連客としてはさ、毎回程良く絶望してくれる、あの絶望加減が気に入ってて……あ、絶望が僕ら夢魔たちのごはんってこと、でさ、昨日も君の夢の味目当てで来たのにさ、求めてた味と違うんだもんよ。
なんて言うの、機械化されすぎた絶望って言うか、自家製じゃなくなった感じ、仕込みを外注して簡略化しましたーみたいな?
いっつも楽しみにしてたからさ〜、一軒目がイマイチだったときでもさ、二軒目は君の夢、つまりはテッパンの味で、それでその日の辻褄が合うわけよ。
だからさ、とにかく……忘れないでほしいんだ?
君の夢の味のファンがいるってこと、ね?
まぁ体調もあるだろうし、もちろん無理は望んでないから、自分のペースでゆっくり、以前の絶望を思い出してよ。
じゃあ……これからも、応援してます。
君の絶望の味のファンより……って、アハッ、なんだか照れ臭いねっ!
じゃあね!
絶対絶対、また来るからね!
☆☆☆
「……わあ、すごい。ワタシの絶望にも、ファンなんていたんだ。ようし、これからも張り切って絶望するぞ……って、そんなんするかぁボケェ! 人の夢でタダ食いしまくっといてなにほざいてんだ、オマエに食わせる絶望なんかねえ! 閉店ガラガラだ、コンチクショー!」
『星になる』
夜空の星になる日は来ない
見上げる者を持たない星は
光り輝く術(すべ)を知らない
だからわたしは
端(はな)から海へ
ヒトデという名の
海星(うみほし)になる
両の手足と頭があった
前世のことをすべて忘れて
五つの腕で
ゆるくノビして
波に洗われ
捕食されても
再生しつつ
波を漂う
五本の指を
ヒラヒラと振る
いつか
ヒトデになる日のために