誰もいない自習室で。突っ伏して寝ている俺の横に、いつの間にか彼女が座っていた。
顔を上げなくたってわかるくらいには、彼女の香りも気配も覚えている、それはお互いにそうで。
が、それ以上距離を縮めることが出来ない、それは俺と彼女が、ヘンなところで似たもの同士なせいだった。
「……ズルい、なあ」
寝ている俺の横で彼女は、そう独り言ち──いやそのセリフ、そっくりそのままお前に返すけどな?
お互いに、相手が決定的なことばをくれるのを待ってる、とか……先に言ったほうが負け? それって、なんのマウント?
狸寝入りを続ける俺の髪に、彼女の指が絡むのを感じる。なんとなくそれにイラついた俺は、咄嗟に彼女の手首を掴んだ。
「わ、びっくりした! 起きてたの?」
「………………」
彼女の問いを無視して、俺は彼女に向かい合うようにして起き上がった。
彼女の手は掴んだまま、その手をじっ、と見つめてみる。
あーあ、イマイチ頭が働かねぇ……ん、待てよ?
俺はいま、寝ぼけてて……例えばこんなことしたって、たぶん許されるんじゃね?
「っ! ちょ、んっ、なに?」
ぐい、と彼女の手を寄せて、その手のひらにキスをして。細く冷たい指先が驚いて引こうとするのを阻止しながら、ついばむようなキスを何度か繰り返し、そして──。
「なっなによ、なんなの、これはっ?」
「えー? えーと……なんだと思う?」
振り解いた手でバシッ、と俺の頭をはたいた彼女が、自習室を出てゆく。
チェッ、なんだよ、そんなにビビんなくたっていいじゃねーか。
俺だって、こんなふうに──誰かになにかを渡したくなったのは、これが初めてだったんだぞ?
◇
少し後で学食に行くと、自分の手のひらをぼんやりと見つめている、彼女がいて──それを見つけた俺は、思わず顔がニヤけそうになった。
フフッ、してやったり……さぁて、こっからだな?
彼女にやった『手のひらの贈り物』──その感想を俺は、どうやって問い詰めてやればいいだろう?
12/20/2025, 9:45:35 AM