目が覚めれば仕度をして仕事に行き、終電で帰れば泥のように眠る、そんな日々を送っていたボクに『冬の足音』が聞こえたのは、もう真後ろに立たれたくらいの距離だったんだ。
ザッ。ザザッ──駅からの帰り道に横切った公園で、公園の砂の地面をスニーカーが削るような音がして、ボクはバッと振り返り、でもそこには誰もいなくて、そこで吹いて来た風が、思いのほか冷たくって──。
「は? ストーカー?」
そうじゃない。季節感はおろか曜日感覚すら失くしてたから、冬の足音に気付けなかったんだよ、ってハナシ。あれはきっと冬将軍じゃない、冬足軽の足音だったんじゃないかな?
「ハァ。冬足軽ってなんだよ、オマエの薄着の言い訳聞いてたのに、なんでそんな新キャラが出てくんだ……わかった、もういい。とにかく寝ろ」
冬足軽もきっと、寒そうなカッコしてたんじゃないかな。ほら、昔のコントみたいに「イッキシ!」なんて、そんなクシャミしてそうじゃない?
「あーうん、なんか気の毒だから、ダウンでも着せてやれ。夢ン中なら出来るだろ? っと、体温計……38度越えてるぞ? 風邪なんか引いてんじゃねぇよ、ったく!」
お題:『贈り物の中身』
「ママ、ただいまー。あれー? パパはー?」
「あー……うん。えっとね、アレなんだけど、」
「おフトンに、紙が貼ってある? ええと……『この中にミカちゃんへのプレゼントがあります』だって! わーい! ……えー? なんで、パパ……?」
「じゃーん! 今年もずーっといいコにしてたミカちゃんへのクリスマスプレゼントは、サンタパパでしたー! なーんちゃって……って、あれ?」
「あーあ、パパってば……ついに、ママにすてられちゃった? だからミカに、ひろってほしいの?」
「え? や、そーじゃなくって、えーと……ほら、まずサンタ姿のパパの可愛さにびっくりするとか、こんなプレゼントじゃやだー、とか……」
「うーん、しょうがないなぁ。じゃあパパは、これから、ミカのおサイフにしてあげる! たーくさんカキンさせてあげるねっ」
「ちょっ、まっ……ミカちゃんってば、そんなコトバ、どこで覚えてきたのっ?!」
◇◇◇
「ミカったら、夢中になっちゃって。これじゃあクリスマスパーティーって言うより、ゲームパーティーねー。
ほーら、パパ……シンくんも。そんなすみっこで体育座りなんかしてないで、ね? プレゼントのゲーム、ちゃんと喜んでくれてるんだから、こっちに来て一緒に、」
「……俺は。あのとき、スッゲー嬉しかったんだ」
「んん? あのとき、って……あ、」
「付き合ってすぐの、クリスマス。ミキが、『プレゼントはアナタの大好きな、わ・た・し』って、布団の中で、スタンバイしてくれてて……」
「っ、あーれーは! サンタコスなんてやっぱやめよっかな、って考え中だったのに、シンくんが早く帰って来ちゃったから、とっさに隠れただけで! ……って言うか、さっきのミカへのサプライズって、そんな理由だったの?!」
「……どーせ、俺なんか。ミカちゃんとミキの、サイフでしかないんだ……」
「あー、もうっ! クリスマスにサンタが、ジメジメすんな!」
ここは『君と紡ぐ物語』の中、つまり僕と君が主人公の、二人は幸せに暮らしましたとさ、ってベタなエンドロールを出しっ放しの、世間的にはありふれた話だったはずで。
僕があの日、彼という新しい登場人物を君に紹介してしまったことで、紡ぎ糸がよれ、物語に綻びが出来てしまったのだ。
そして君は、それを上手に隠しているつもりで、けれど表向きは、僕とのハッピーエンドを続けていて──ふーん、そんな二重構造の話だったなんてね、さて。これから……どうしようか?
ここにある綻びを指さして、それから? いや、それとももう少し、綻びに気づかないフリをしてみようか?
『霜降る朝』にランドセル背負いつつ見つけたシモバシラ、あれを踏むときのあの音がまさに『失われた響き』だよな、って思った。シモバシラ、都会ではもう滅多に見つけられないし、見つけたとして、踏んでいい場所じゃないことのほうが多いのかな?
──『心の深呼吸』をしてみましょう。
「だって!」
「はあ? なんでオレが、」
──深呼吸のコツは、まず初めに息をゆっくりと吐き切ること。心も同じです。心の二酸化炭素をゆっくりと吐き切りましょう。
「心の二酸化炭素って、愚痴とかってこと?」
「吐き切るまでグチグチ言い続けるんか」
──心がカラッポになりましたか?
「ほとんどバイト先の店長の悪口だったかも」
「まぁ……お互いしゃーねーだろ」
──今度は、心の酸素を吸い込みましょう。あなたの好きな物を、あなたの五感で、思う存分吸収します。
「ボクはやっぱり、推し活だね!」
「ふーん。推し、か。オレにとっては……」
──パートナーとお互いの良いところを認め合ったり、ハグをしたりするのも効果的です。
「ボクに懲りずに、いろんなコトに付き合ってくれるの、すっごくうれしい! ありがとね!」
「お、おう。オマエのそういう素直なところが、オレは、」
「よし! じゃ次は、ハグしてみよっか!」
「っ、マジか……?」
「パートナーってヤツじゃないとあんまり効果ないかもだけど、」
「あーいや、まぁ試しにやってみてもいい……ゲフッ、急に飛びついてくんな!」
「わー、ボクと違って筋肉あるよねー」
「えーと……心の酸素が……濃いめ……」
「んん? なんか言ったー?」