あなたはそこまで
お前はもっと向こうだ
君はここまで
僕の決めたルールに沿って
周りのみんなを振り分ける
好きな人は近くに寄せて
苦手な人は遠ざけて
罪悪感なんてない
ここは僕の世界
振り分けして何が悪い
僕のルールに則って
毎日みんなの位置を
調整 調整 調整
大事な僕に
誰も触れてこないように
近づけながら遠ざける
どうかそんな目で見つめないで
僕はまだ、寂しくなんかない
テーマ『ルール』
あの子がこぼしている涙には
愛情や
幸せや
感謝や
勝利の嬉しさがこもっているの
対する私の涙には
羨望と
嫉妬と
絶望と
どうしようもない惨めさがあるの
今すぐにでも
あの幸せをぶち壊して
あの子を私と一緒のところに落としたい
そんなことを思った自分が怖くなって
握りしめた拳
またこぼれる私の雫
今は言えないお祝いの言葉
今なら吐ける呪いの言葉
こんな私も悲しいけれど本物の私
いつか誰かが
ううん
あの子みたいに誰かの王子様になんとかしてもらおうなんて思ってやらない
いつか私が
私の力で綺麗に泣けるようになったら
死ぬほど美しく笑ってやるわ
それまでは絶交よ
私の親友だった人
テーマ『雫』
「空が青い日に迎えに行くね」
妊娠した浮気相手の椿を、やっぱり責任取れないからと適当に捨てた時に言われた言葉だ。
その時は意味がわからなかったのと、大きなお腹をした椿の異様な雰囲気に気圧されて、俺は逃げるようにその場を立ち去った。
そこから5年が過ぎた今日。
あの時の本命の彼女、美春との結婚式が行われる。
あれから椿と適当に遊んだことを後悔した俺は、美春に殊更愛情を注いだ。
椿の言葉を受けてしばらくは、晴れた日を特に警戒して過ごしていた。
だが、不思議なほど何も起こらず、次第に椿への恐怖感も薄らいでいった。
椿と別れてから4年目、流石にもう大丈夫だろうと思い、美春にプロポーズした。
十分時間も経ったし、椿もきっと、どこかで幸せになってくれているはずだ。
曇天の空の下、もう絶対に浮気はしないと固く心に誓い、結婚式に臨む。
今日の俺は、最高に幸せ者だ。
結婚式が始まり、教会の中で新婦である美春の入場を待つ。
雲が切れ、快晴となった空から教会に光が降り注ぎ、神秘的な空気を醸し出す。
その時だった。
招待客の一人が立ち上がり、俺に向かって走ってきた。
あんな男、俺達の知り合いにいただろうか。
そんなことを思いながら固まってしまった瞬間、腹に衝撃が走った。
痛い、痛い、痛い。
刺された俺は床に倒れ伏した。
周囲から悲鳴が上がる。
他の招待客に取り押さえられた男が叫ぶ。
「死ね、この屑が!お前のせいで娘は…椿は死んだ!」
嘘だろ。椿が死んでいたなんて。
あまりの痛みと驚きで言葉を発せられない。
男は鬼のような形相で叫び続ける。
「子どもを堕ろせなくなっていた椿は心を病んで、お前の人生最高の日、晴れの日に復讐してやるとずっと言っていた。だが、復讐する前に出産で椿は子どもと共に死んでしまった!お前が殺したんだ!」
「…!」
「娘の仇は父親の俺が取る!娘を返せこの外道が!お前が幸せになるなんて絶対に許さない!そのまま床に転がって死んでしまえ!」
椿の父親が泣き叫ぶのを、周囲が必死で取り押さえている。
そして俺に突き刺さる心配と軽蔑の混じった視線。
段々意識がぼんやりしてきた。
本当に死んでしまうかもしれない。
嫌だ。
折角結婚できるところだったのに。
椿は死んでしまったが、美春は生きていて、俺が幸せにしなくちゃいけないんだ。
『ひさしぶり、この屑野郎。まだ自分と美春さんのことを考えてるだなんて、余裕だね』
どこからか椿の声がする。
底冷えするような、恐ろしい声。
『私も赤ちゃんも死んで、お父さんの手を汚させて』
どんどん椿の方に引っ張られている気がする。
悪かった、やめてくれ、頼むーーー
『やめるわけないでしょ。これからあんたは罰を受けるの。私たちの気が済むまでね』
心が絶望に染まる。
もう身体の痛みは感じない。
朧げだった椿の人形のような顔がはっきり見える。
椿が赤ん坊を抱え、聖母のように微笑む。
そしてこちらを見て、
『早く死んでこっちにおいで』
俺が苦痛なく正気を保てていたのは、この時が最後だったーーー
テーマ『快晴の空』
私は恋愛ができない。
ロボだからだ。
私に搭載された人工知能は愛を理解しない。
愛は複雑すぎて、プログラムにできなかったそうだ。
もしこれが物語ならば、私は愛を理解しはじめるのかもしれない。
だがこれは現実。
愛だ恋だはありえない。
そんな感情は遠くの空へ投げ捨てるどころか、そもそも存在していない。
だがこれはなんだ。
「瞳子さん、好きです!俺と付き合ってください!」
突然そんなことを言って、目の前で私に頭を下げる人間の男。
古くて故障しがちな私のメンテナンスをしによく来てくれる榊様だ。
「榊様、私は人型のアンドロイドですが…」
「知ってます!それでもあなたがいいんです!」
「はあ…。私には愛や恋といった感情はプログラムされていません。あなたと同じ感情を返すことはないでしょう」
「いいえ、あなたは愛も恋も知っていますよ。あなたは特別なアンドロイドですからね」
そう笑顔で返す榊様。
私が特別なアンドロイド?そんな記録、システムのどこにも記載されていなかったが…。
私が沈黙していると、榊様は座っている私の手を握り、
「いきなりこんなことを言われても困りますよね、すみません。でも、一度だけでいいですから、少しだけ外を一緒に散歩してくれませんか?」
「まあ、それくらいなら」
告白したと思ったら急に散歩。
脈絡のない言動に私のプログラムも混乱する。
だが、何があっても人間よりアンドロイドの方が力が強いし何とかなるだろう。
「ありがとうございます!じゃあ早速行きましょう」
嬉しそうに私の手を引き、歩き出す榊様。
そうして一緒に白い部屋を出て、外に出る。
外では桜が咲いていた。
榊様が桜からふと目を逸らし、私を見つめる。
「瞳子さん、『俺は君が君を何者だと思っていても、何度でも迎えに行くよ』」
「あ…」
どこかで聞いたような台詞を言われた途端、急に沢山の記憶が溢れてくる。
榊様ーーー私と同じ苗字をした人間の男。
この人は…。
「ーーー守?」
名前を呼ぶと、太陽のような笑顔が返ってきた。
「おかえり瞳子ちゃん。今回は長かったね。退院手続きはもうしたから、一緒に帰ろう?」
「ごめんなさい、私…」
「いいんだよ。何度でも瞳子ちゃんを迎えに行ける俺は幸せだよ。アンドロイド瞳子ちゃんも、可愛かったしね」
「もう…でも、ありがとう。今日はハンバーグ作るわね」
「やった!瞳子ちゃんのハンバーグ大好き!」
そうして笑い合いながら私たちは家へと帰っていく。
私は遠くの空を眺め、私が私を人間だと思える時間、守と一緒にいられる時間が少しでも長く続くよう祈った。
テーマ『遠くの空へ』
誰よりも、ずっと。
愛してきた。
努力してきた。
尽くしてきた。
なのに。
なのに。
愛してもらえなかった。
報われなかった。
手酷い仕打ちを受けた。
あなたのことはもう大嫌い。
あなたの愛情を諦められない私の心も大嫌い。
分かってる。
あなたに私は求めすぎた。
私の行動はあなたへの押し付け。
「これをするから愛して」ばかり。
だからあなたに嫌われた。
でも、私は期待を捨てられない。
いつか、私の「愛して」を叶えてくれる存在が現れるんじゃないかって。
歪でも、私は私なりに頑張ってきたの。
そんな存在いないだとか、自分で自分を満たせだとか、もううんざりなの。
ねぇ神様。
夢でもなんでもいいから。
沢山のことは望まないから。
私にご褒美をください。
「愛して」を叶えてください。
テーマ『誰よりも、ずっと』