私は恋愛ができない。
ロボだからだ。
私に搭載された人工知能は愛を理解しない。
愛は複雑すぎて、プログラムにできなかったそうだ。
もしこれが物語ならば、私は愛を理解しはじめるのかもしれない。
だがこれは現実。
愛だ恋だはありえない。
そんな感情は遠くの空へ投げ捨てるどころか、そもそも存在していない。
だがこれはなんだ。
「瞳子さん、好きです!俺と付き合ってください!」
突然そんなことを言って、目の前で私に頭を下げる人間の男。
古くて故障しがちな私のメンテナンスをしによく来てくれる榊様だ。
「榊様、私は人型のアンドロイドですが…」
「知ってます!それでもあなたがいいんです!」
「はあ…。私には愛や恋といった感情はプログラムされていません。あなたと同じ感情を返すことはないでしょう」
「いいえ、あなたは愛も恋も知っていますよ。あなたは特別なアンドロイドですからね」
そう笑顔で返す榊様。
私が特別なアンドロイド?そんな記録、システムのどこにも記載されていなかったが…。
私が沈黙していると、榊様は座っている私の手を握り、
「いきなりこんなことを言われても困りますよね、すみません。でも、一度だけでいいですから、少しだけ外を一緒に散歩してくれませんか?」
「まあ、それくらいなら」
告白したと思ったら急に散歩。
脈絡のない言動に私のプログラムも混乱する。
だが、何があっても人間よりアンドロイドの方が力が強いし何とかなるだろう。
「ありがとうございます!じゃあ早速行きましょう」
嬉しそうに私の手を引き、歩き出す榊様。
そうして一緒に白い部屋を出て、外に出る。
外では桜が咲いていた。
榊様が桜からふと目を逸らし、私を見つめる。
「瞳子さん、『俺は君が君を何者だと思っていても、何度でも迎えに行くよ』」
「あ…」
どこかで聞いたような台詞を言われた途端、急に沢山の記憶が溢れてくる。
榊様ーーー私と同じ苗字をした人間の男。
この人は…。
「ーーー守?」
名前を呼ぶと、太陽のような笑顔が返ってきた。
「おかえり瞳子ちゃん。今回は長かったね。退院手続きはもうしたから、一緒に帰ろう?」
「ごめんなさい、私…」
「いいんだよ。何度でも瞳子ちゃんを迎えに行ける俺は幸せだよ。アンドロイド瞳子ちゃんも、可愛かったしね」
「もう…でも、ありがとう。今日はハンバーグ作るわね」
「やった!瞳子ちゃんのハンバーグ大好き!」
そうして笑い合いながら私たちは家へと帰っていく。
私は遠くの空を眺め、私が私を人間だと思える時間、守と一緒にいられる時間が少しでも長く続くよう祈った。
テーマ『遠くの空へ』
4/12/2024, 11:46:02 PM