おでん、ホットコーヒー、中華まん。
冬のコンビニの食べ物は、冷えた身体に優しい。
どれも美味しいけど、こういう時は、やっぱこれでしょ。
「肉まん2つください。」
ほかほかの包みを1つ、君に渡す。
君はちょっとだけ目を見開いて、ありがと、とふんわり微笑む。
アパートまでの道を、並んで歩く。はふはふと肉まんにかじりつきながら。
寒いね。鼻まで冷たいよ。肉まん、おいしいね。
早く家に着きたいような、このまま永遠に歩き続けたいような、そんな夜だった。
私はよく風邪をひく子どもだった。
熱はあまり出なかったが、喉が弱かったのか咳がひどく、特に夜は辛かった。
甘えん坊だった私は、そんな時は余計に母にべたべたとまとわりついたものだったが、不思議なことに母に風邪がうつることはなかったようだった。
私は母が寝こんでいるところを見たことがない。
なんで、お母さんは風邪ひかないの?
気合いよ、気合い。
布団をかぶった私が聞くと、母は笑ってそう答えた。
そして今。
「気合いよ、気合い」
いつの間にかすっかり丈夫になった私は、あの時の母と同じ言葉を娘に返している。
何でもないふりが得意なあなた。
だけど、実は結構バレバレです。
気づいてないふりが得意な私。
でもきっと、バレてるんだろうなぁ。
週末は、なにか美味しいものでも食べに行こうか。
きみの手がわたしの手を探す。
わたしがきみの手を握ると、きみはとても幸せそうに笑う。
お外が好きなきみと、ずいぶんいろいろなところを歩いた。
あとどれくらい、こうしていられるのかな。
もしかしたらこれが最後になるかもしれない、今この時を、ちゃんと覚えていられますように。
願わくば、わたしのかわりにきみの手を握って歩いてくれる人と出会えますように。
明日私は、違う名字になる。
新しい家は、母と暮らした家からは県を二つ跨いだところにある。
明日から母はあの家でひとりで暮らすのだ。
新しい家はとても楽しみだけれど、大事なものを置いていくような、心細くて落ち着かない気持ちがいつまでも離れない。
ありがとう。おかげさまで楽しかったわ。
私が変な顔をして黙っていると、母が私の頭をぽんぽん、と撫でて微笑んだ。
わたしのほうこそ、いままでありがとう。
ひとりにしてごめんね。
途中から声が震える。視界がぼやけて見えなくなる。
そんなのいいよ。元気でやんなさいよ。
やわらかな母の声に、また涙があふれる。
お母さんの娘でよかった。
ありがとう。