今夜は良い晩ですね。月の綺麗に見える、良い晩。ほら、彼方の、空が見えますか?あんなに、深く、酔った様な藍をしているでしょう。その癖、雲は、紅く焼けているのだから、不思議なものです。眩しくて私は苦手なのですけれど…。
流れ星が落ちたと誰かが言いました。私は、直ぐにその方を見ました。そして、暫く、じい、と見詰めて居ました。
流れ星がかえってくる訳でもなかろうに!
そんな私に誰かは言いました。
「この、あっちの方の、ビルの上辺りよ、そこから、一秒くらい、落ちたのよ、近かったのよ」
と。そうして、その人もまた、その方を、じい、と見詰めるのでした。
流れ星がかえってくる訳でもなかろうに!
朝カーテンを開けたらば
空へと登る花の子に
出会うて擽る蝶が舞って
ああ今は春なんだと知る
朝日に消えゆく星々は
どうしてああも、弱々しい?
夕になればきらきらと
輝き出すばかりだというのに
夕の何が良い。
#6
なんともああ、醜い生涯である、人のいう道理とはかけ離れてある、悔いようと悔いようと、償いを必要とする人は居るもんで、逃げてばかりの自分が嫌になる、それで良いじゃないかといっても、聞く耳持たないのである、どうか私の為に、「はい」と、「その通りだ」と、いってはくれないか。
私は極めて正常な人間です
いつだって本質というものは
詰まらない
いや、本質を追い求める様が詰まらないのか
それが正解なのかも分からないのに、走って手を伸ばして触れようとするそのザマが
詰まらないといいながら必死に、必死に指先ふるわすのが私である
「だいたい、技法っていうのはぁ、ものを作る過程で表現に使うだけであってなぁ、その技法を使おうと思って使うもんじゃあ無いんだ」
いつだってそう気づかず馬鹿に生きていりゃあ良いのである、
真実をしっているのが自分だけであろうと、
書くのは自分なんだから、どうとでもできる
どれだけ生きたとかなんて重要じゃない、とはいっても
あとどれだけの年月があればあ、もっと多くの作品が生み出せるのになあ、と
巫山戯た巫山戯た、戯けろが、
一生そうやって間抜けな振りを
無闇矢鱈!であるのだ、
荒削りでしかあ無い、
技術というのはそうやって着けるもので無い、
だがそれが一番魂に近い
けれど
もう少し、丁寧に、繊細に、と、気を使って、
それが出来ないで魂をあらわそうなんて言うもんじゃ無い
ー
だから
囚われた形式に入ったままの奴は嫌いなんだ
それで人をましてや書く人を
どうしようとか考えるな
ー
近寄ろうとされるのは気分が悪いものだ
ー
!
肉がえぐれると
埋まっている骨が露出する
細く
折れてしまえばといってもそれは
標識の如く僕を支え
それだけになろうとも
僕にペンを持たせる
ひとつきも願ってはいないのに
このペンは
僕の骨だ。
!
桜餅を食べましょう
それは春の特別なお菓子であって
甘く塩っぽく
ああああああああああああああああああああああああ
兎に角おいしい。
おいしいのである。
桜というのは
枝にそのまま花の咲いたかのような
あんまり無垢でかろやかな
薄づく花びら
ちぎるときのつう、と裂けるのが
大層愛おしい
直ぐにそれは酸化して
誠がつき
色も褪せ染み
短い命なのだ
次につけられる実も大して長生きはしない。
美しさのみの
そういう生き物なのだ。
…
ならば私は
茨の有る薔薇なんかだろうか
今日だけ
詰まらない独白を許して
#5
何処に居るのですか
私が見えますか
私の声が聞こえますか
出来るだけ近くに行きますから
聞いて下さい
私の書いた詩を
…
よくやったと
言って下さい。
空にいるのですか
宙を漂っていますか
霧になって
散ってしまいましたか
…
遠くに木の枝の折れる音
振り返りはしませんよ
きっと貴方ですから
#4
眠いので別のを。
(タイトル無し)
ここには陽(ひかり)は照らさない
夕焼け終わると無力なもんで
たちまち寝床へ転がる身
ただ、水の飛沫の、
冷こいのを感じたいと、
あの川の下りの、
柔らかいのを想像して、
ここには湧水流れんで
ここには砂利道通らない
電灯つけずに、動かずに
ただ、
冷こいのを感じたいと、
眩しいのを手で避けながら、
冷こいのを感じたいと、
動く事せずに、
闇の中で。
#3
「珈琲」(即興フィクション)
「う…っ、」
思わず、むせてしまった。乾いた咳が引き起こされる。喫茶店や、職場にいる人々は、これをどう飲んで、美味しいと言うのだろうか。
コップに入った珈琲を、見詰める。ベッドの横の、窓を開けて居たので、感じていた、そよ風が止み、珈琲の波紋が凪いで、自分の顔が映る。そうして直ぐに、また、ひと口、飲む。吐き出さない様に、零さない様に、しっかりと、マグカップの持ち手を握って。
私は今、ただの憧れで、珈琲なんかを飲んでいる。それも、普段なら寝ている夜更けに。案の定、目は冴えるし、苦いし、不味いし、散々だ。正直、少し、後悔している。
私の憧れている人は、いつも、眠れない夜に、珈琲を飲むのだと、言っていた。余計に、眠れなくなるのではないかと、聞いてみた日には、眠れないのを、珈琲のせいに出来るから、それで良いんだよ。なんて言われて、少し、心配になった。
毎日毎日、彼は、飲んだ珈琲の豆の話を、していたから。
私が今飲んでいるのは、彼が、話していた豆の中で、一番、最近の物だ。これが、本当に、苦い。より、カフェインの強いものだと、言っていた。
ほんの少しずつ、着実に、飲み進めていた。飲み始めの頃に見つけた星座は、もう、沈んでしまった。熱さで誤魔化されていた苦味も、徐々にあらわれてくるのだが、それが大変辛かった。けれども、牛乳や砂糖は、入れない。彼が、入れない派だったから。
息を止めて、一気に、流し込むけれど、苦いものは、苦かった。
もう、晩御飯より、朝ごはんの方が、近いくらいに、夜が更けていた。けれども、飲み終わるのには、もう少し時間がかかりそうだった。
夜の味がしたから。眠れない夜の、涙の味がしたから。
揺れる珈琲が、また私を映していた。
不味いじゃん、と、上の方にある星に向かって、呟いた。
#2
「旅は続く」を書きたかったのですが、明るいお題は苦手です…。