「風が応えた」
ただいま
我が家
ただいま
日常
貴方は居なくとも
日差しがそこに在る
ただいま
声を
ただいま
震わせ
……
風が吹き抜けた
#16
死を望むもの
死に向かうもの
火に焦げる蛾なんかでなくて
針を刺す蜜蜂なんかでなくて
少し高尚な
本能にナイフを突き立てること
思考を毎夜止めずにいること
最後は皆骸であるのに
#15
紅葉、おまえは
そこに突っ立って
何だと言うんだ
僕がどれだけ殴っても汚れるしか無い泥を
おまえは養分だと言うんだな
朽ちる様さえも
綺麗だと言わしめるんだな
醜い僕がどれだけ藻掻こうと
おまえの様にはなれないよ
せいぜい、そこで突っ立って
完全に朽ちてしまうまで
僕の話でも聞くんだな
…
君は落ち葉だ
赤い枯葉だ
地面に積もって
人々が踏みしめ
ぱりりと裂ける
ほら君は
綺麗な紅葉
僕の下の。
#14
「はーい!」なんて、僕に似ない元気な声がした。娘の授業参観に来る時は毎回、しみじみと成長を感じる。
窓から見える金木犀が、二階まで香りを放っている。20年前に僕がこの教室に居た秋頃は、横目で窓の外を見やって、その香りだけに耽って居たのになあ。
#13
私はもう永くない
これといって病気がある訳でも無く、身体は今日も通常運転だが、なんとなく、そんな予感がするんだ。
ただ、毎日、着実に、寿命が減っている感じがするというだけ。実際、減ってはいるだろうから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。
…せめて、いつこの世界から消えるとしても、後悔の無い様に、生きようと思う。
度々、結局いつか死んでしまうのなら、いっその事早く死んでしまった方が良いのでは無いか、と思う事がある。
それでも私が生きているのは、この世界に文学があるから。
本を読もうと思う。数え切れないくらいの本を。そして自分の世界を広げる。
まだ私には語彙や表現方法が少ない。義務教育ももう終わりに差し掛かっているのに、習った漢字を全ては書けない。
私よりもひとつ下の女の子が、書いた小説を見せてくれた。それを読んだ瞬間、えも言われぬ高揚感に包まれた。私の書く小説よりもよっぽど面白かった。一般語彙に絞って書いてくれたんだそうで。彼女の表現力はそのままに、読み易い文章に仕上がっていた。学校という空間をああも読者に飽きさせず描写できるという事に感動した。
いつか絶対にものにする。彼女の表現も、数々の文豪の表現も、全ての文学を取り込んでみせる。死ぬのはそれからでも遅くは無いだろう。
#12