仲間
いつ死ぬかも分からないこの世界で
あなたに出会うことが出来たのは
生きてきたなかでの幸せで
ずっと、この先も
その幸せを噛みしめていくものだと思ってた
僕は戦場で戦うことが決まった。
その日の夜、あなたは僕を呼び出した。
「…別れよう。これからは、仲間でいてね」
そういう君の手は震えていた。
僕は何もいうことが出来ずに、
ただ立ちすくんでしまった。
きっと、僕が戦場に行くから。
別れたくなくても、別れることしか出来なかったんだ。
僕が帰ってくるか分からないのに、待つ必要なんて
無いって君は思ってるんだね
……でも、僕はそういって欲しかったんじゃない。
いつ死ぬか分からないこの世界で。
僕は、君が死んでも、君を待つつもりだった。
君は、きっと違ったんだね。
…ただ、待ってると、
「…少しでも引き留めて欲しかったな、」
仲間を想い、夜明けと共に戦場へ。
手を繋いで
ずっと孤独で
この世界で生きていくと決めて
隣にいた温もりを手放してしまった。
一緒にやっていた仲間ももうとなりにはいない。
高みを目指すことは、こういうことなんだと知った。
でも、それでも
君は僕を待ってくれていた。毎日強く当たって
すぐ離れていってもおかしくないのに
毎日、僕を待ってくれていた。
人は目指すものが無くなると道に迷うという
でも、それでも
一人で挑戦したその先に
目指すものがなくなっても
君がいれば大丈夫
手を繋いで
二人、歩んでいく。
孤高のみちへ。
ありがとう、ごめんね
あなたが、この景色を見たらなんて言っただろう
それとも、なにも言わないのかな。
それでも、僕はあなたの笑顔が浮かんだんだ。
あの冬、あなたが死んでなければ
この答えは見つかるのにな
春、僕はあなたに出会った
毎日が嫌で、逃げたくなって
死にたくなって、授業をさぼって
立ち入り禁止の屋上へ入った。
そこには、太陽に照らされ
優しく淡く光るあなたがいた。
その綺麗さに、儚さに
僕はきっと一目惚れをしてしまったんだ。
驚いた顔で、
「…ふふっ、授業は?さぼり?
…同じだね、隣来る?話そうよ、一人だからつまんないの。」
そういって、優しく微笑んだあなたの笑顔を見たのは
これが最後だった。
次の日、また会えるかなと思って屋上に行ったけど
君はいなくて。
保健室を覗いてみたら、あなたはそこで
横たわるように眠っていた。
「怪我でもしたの?」
適当なことを言って誤魔化そうと思ったけど
綺麗なあなたが居たから
「…いいえ。その子が気になるんです。
教えてください。どうして眠っているんですか。」
先生は強ばった表情で
「……そっか、昨日言ってたのはあなたのことなんだね。
この子はね、もう長くは生きられないの。この冬も、きっと越せない。だから、最後に学校に行きたいって
…灯羽が言ったの。だからね、この子のことは、
私と、あなただけの秘密。いつでも、ここにきてもいい。
きっと、あなたも今辛いでしょう?学校で、うまくいって
ないでしょう?ここにずっといてもいい。だから、灯羽の
こと、最後に幸せにしてあげてくれる?」
そうだったんだ。灯羽の方が、ずっとずっと
苦しくて、孤独なのに。僕に笑顔を向けてくれた
そんな灯羽を、僕は幸せにしたい。そう誓った。
「…あ、あれ、昨日の……
……きっと、先生から話は聞いてるよね。
嫌だったら、いいんだよ。断って。
私は…どうせ長く生きられないから。」
「…いや、僕が灯羽を幸せにするよ。」
「……ありがとう。宜しくね。」
それから、僕は暇さえあれば保健室で灯羽と過ごした。
暑い夏も、少し涼しい秋も。
時には体調を崩して、会えない日もあったけど。
あなたの顔にあるのは、辛さと苦しい顔と、
無理に作った笑顔だった。
冬、僕は正直怖かった。
灯羽を失うのが。
だんだんやつれて喋れる気力もない日が続き、
最期の日、灯羽はこう言った。
「……優海くん。もう、私がいなくてもあなたはきっと大丈夫。もう、ここに来なくていいよ。私は優海くんにたくさんの幸せを貰ったから。もう、優海くんは、前よりずっと成長してる。ここには、もうこないで。ありがとう、ごめんね。」
そういって僕に話させる間もなくあなたは次の日、
亡くなってしまった。
数日後、灯羽から手紙が届いた。
あり得るはずがないのに。
僕はすがるようにその手紙を開けた。
「優海くんへ
優海くんは私と最初に会った日のこと覚えてる?あの日、私は優海くんに一目惚れしました。すごく、儚くて、今にも消えそうで、でもそれでいて優しそうで、そんなあなたを手放したくない、って思って声をかけました。私はどうせ、この冬で死んでしまうと分かっていたので、優海くんだけは助けたいと思いました。私と過ごす度、優海くんは元気になりました。それと同時に、すごく怖かった。私がいなくなったらどうなるんだろうって。だから、私は死んでしまう前に、優海くんと離れる決意をしました。もう、私がいなくてもあなたは成長できる。前を向ける。そう信じています。優海くんには自分で立ち上がれる強さがあります。海と同じくらい広い優しさがあります。私が病気で挫けそうになった時。もう嫌だって思った時。どんなときも、優海くんは私に言葉を掛けてくれました。すごく嬉しかった。
それと同時にこの優しさが受け取れなくなるのがすごく嫌でした。でも、これが私の運命です。離れることを伝えたあと、私はいつ死ぬのかこの手紙を書いた今は分かりません。優海くんが笑顔で私の思い出を思い出せるようになるまで見守っています。絶対私の分もたくさん生きてね。さようなら。大好きでした。」
涙が止まらなかった。
「…ずるいよ、灯羽、」
封筒の中に入っていた、いつも灯羽がつけていたペンダント。
いつか、笑える日が来るように。
そう願って、棚にしまった。
少し経って、春がきた。
灯羽が、越えられなかった春。
灯羽と、出会った春。
ペンダントを付けて、桜を見る
たまに思い出して辛くなるけど、ずっとペンダントを
つけれるくらいには大丈夫になったよ。ありがとう。
灯羽、だいすきだよ。
「この景色、見えてる?」
そう言って、天を仰いだ
部屋の片隅で
今日も、ただ一人
冷え込んだ部屋で震えながら
あなたの帰りを待つ
いつになったら帰ってきてくれるのかな
期待ばかりが膨らんで
夏の夜に、春の花の蕾と共に
淡く、はじけた。
夏なのに寒いと感じるのは
あなたがいないからなのかな
部屋の片隅で
今日も一人、あなたを待つ。
満月の日に、願いを込めて。
逆さま
いつも私は最前線
私以外はみんな敵
ヴィランに飲み込まれることなく
許されざる神秘のその奥まで
手を延ばしたところで遠ざかるそれに
苛立ちを覚えて
今日も距離を縮めて
やっと辿りついたところで
私の視界は反転
逆さまに落ちてゆく
見上げれば
私を見下ろしている
これが、私の最後の景色