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ありがとう、ごめんね

あなたが、この景色を見たらなんて言っただろう
それとも、なにも言わないのかな。
それでも、僕はあなたの笑顔が浮かんだんだ。
あの冬、あなたが死んでなければ
この答えは見つかるのにな

春、僕はあなたに出会った
毎日が嫌で、逃げたくなって
死にたくなって、授業をさぼって
立ち入り禁止の屋上へ入った。
そこには、太陽に照らされ
優しく淡く光るあなたがいた。
その綺麗さに、儚さに
僕はきっと一目惚れをしてしまったんだ。
驚いた顔で、
「…ふふっ、授業は?さぼり?
…同じだね、隣来る?話そうよ、一人だからつまんないの。」
そういって、優しく微笑んだあなたの笑顔を見たのは
これが最後だった。
次の日、また会えるかなと思って屋上に行ったけど
君はいなくて。
保健室を覗いてみたら、あなたはそこで
横たわるように眠っていた。
「怪我でもしたの?」
適当なことを言って誤魔化そうと思ったけど
綺麗なあなたが居たから
「…いいえ。その子が気になるんです。
教えてください。どうして眠っているんですか。」
先生は強ばった表情で
「……そっか、昨日言ってたのはあなたのことなんだね。
この子はね、もう長くは生きられないの。この冬も、きっと越せない。だから、最後に学校に行きたいって
…灯羽が言ったの。だからね、この子のことは、
私と、あなただけの秘密。いつでも、ここにきてもいい。
きっと、あなたも今辛いでしょう?学校で、うまくいって
ないでしょう?ここにずっといてもいい。だから、灯羽の
こと、最後に幸せにしてあげてくれる?」
そうだったんだ。灯羽の方が、ずっとずっと
苦しくて、孤独なのに。僕に笑顔を向けてくれた
そんな灯羽を、僕は幸せにしたい。そう誓った。
「…あ、あれ、昨日の……
……きっと、先生から話は聞いてるよね。
嫌だったら、いいんだよ。断って。
私は…どうせ長く生きられないから。」
「…いや、僕が灯羽を幸せにするよ。」
「……ありがとう。宜しくね。」
それから、僕は暇さえあれば保健室で灯羽と過ごした。
暑い夏も、少し涼しい秋も。
時には体調を崩して、会えない日もあったけど。
あなたの顔にあるのは、辛さと苦しい顔と、
無理に作った笑顔だった。
冬、僕は正直怖かった。
灯羽を失うのが。
だんだんやつれて喋れる気力もない日が続き、
最期の日、灯羽はこう言った。
「……優海くん。もう、私がいなくてもあなたはきっと大丈夫。もう、ここに来なくていいよ。私は優海くんにたくさんの幸せを貰ったから。もう、優海くんは、前よりずっと成長してる。ここには、もうこないで。ありがとう、ごめんね。」
そういって僕に話させる間もなくあなたは次の日、
亡くなってしまった。
数日後、灯羽から手紙が届いた。
あり得るはずがないのに。
僕はすがるようにその手紙を開けた。
「優海くんへ
優海くんは私と最初に会った日のこと覚えてる?あの日、私は優海くんに一目惚れしました。すごく、儚くて、今にも消えそうで、でもそれでいて優しそうで、そんなあなたを手放したくない、って思って声をかけました。私はどうせ、この冬で死んでしまうと分かっていたので、優海くんだけは助けたいと思いました。私と過ごす度、優海くんは元気になりました。それと同時に、すごく怖かった。私がいなくなったらどうなるんだろうって。だから、私は死んでしまう前に、優海くんと離れる決意をしました。もう、私がいなくてもあなたは成長できる。前を向ける。そう信じています。優海くんには自分で立ち上がれる強さがあります。海と同じくらい広い優しさがあります。私が病気で挫けそうになった時。もう嫌だって思った時。どんなときも、優海くんは私に言葉を掛けてくれました。すごく嬉しかった。
それと同時にこの優しさが受け取れなくなるのがすごく嫌でした。でも、これが私の運命です。離れることを伝えたあと、私はいつ死ぬのかこの手紙を書いた今は分かりません。優海くんが笑顔で私の思い出を思い出せるようになるまで見守っています。絶対私の分もたくさん生きてね。さようなら。大好きでした。」
涙が止まらなかった。
「…ずるいよ、灯羽、」
封筒の中に入っていた、いつも灯羽がつけていたペンダント。
いつか、笑える日が来るように。
そう願って、棚にしまった。
少し経って、春がきた。
灯羽が、越えられなかった春。
灯羽と、出会った春。
ペンダントを付けて、桜を見る
たまに思い出して辛くなるけど、ずっとペンダントを
つけれるくらいには大丈夫になったよ。ありがとう。
灯羽、だいすきだよ。
「この景色、見えてる?」
そう言って、天を仰いだ

12/8/2023, 1:43:53 PM