たなか。

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6/12/2023, 11:13:40 AM

【好き嫌い】

僕が好き嫌いをするのはその度に君が叱ってくれるから。君が僕を叱る時はいつも仕方なさそうな顔してなのに、愛おしそうな顔をするんだ。
「野菜好き嫌いあんまりよくないよ!」
「いいじゃん、別に。」
決して否定することは無かった。だって、彼女も好き嫌いがあったから。彼女が食べれないものを無理矢理僕の前では意地っ張りに食べているのを知っていた。少し大きくなってからは
「この人苦手だな。」
「人前で悪口言わないようにね。」
これだけ。彼女は上手く生きる術を知っていた。いや、知らされていた。高校になって気づいたんだ。なんで、彼女がこんなにも俺の事、自分、彼女自身のことを守るのか。小学生の頃は気づけなかった。中学生の頃は見て見ぬふりをした。高校生は気づくしか無かった。
「痣、増えたね。」
「もう、わかっちゃうか。」
守るための好き嫌い。守られるための好き嫌い。俺が彼女を守るため。彼女に俺を守ってもらうため。大人しそうな顔をして今日も好き嫌いをして生きる。彼女の顔を窺いながら。

6/11/2023, 3:16:37 PM

【街】

「この街も変わっちまったな。」
戻ってきて最初に出た言葉。本当は変わってなんかいなかった。ただ、この後に来るであろうこいつの言葉が欲しかっただけ。
「変わったのはお前だろうがよ。」
何も言わずに出ていきやがってなんて悪態をつくこいつは知らない。どれだけ薄暗い感情を抱いているか。一度離れなきゃきっと全て壊れていた。最善の選択だったと思う。良かれと思ってだった。
「変わんない方がよかった?」
「変わんなきゃ壊れてたんだろ。」
知ったように抜かす。そうだけど、違う。気づいてたんでしょ、知ってる。
「俺、あん時お前のこと好きだったんだよ。」
「それ今言っちゃうかぁ。」
本当はそのことだって知ってたよ。なんて、言えることは無い。あの時言ってくれればよかった。あの時気付かないふりをしてくれなければよかった。今ならわかるこいつはきっと知ってた。知ってて言わなかったんだ。気付かないふりをした。
「だるまさんの一日しよう。」
「昔に戻ったフリ? 相変わらずバカみたい。」
公園で日が暮れるまで。暮れても続く時があった。二人でも、何人でも。
「いいよ、やる。」
本当のこと教えてあげるよ。小さい頃だって私が鬼をやってわざと捕まってくれたんでしょ。知ってるよ。知らないでいてくれたお前のための種明かし。だるまさんが泣いていた。
「だるまさんが___」
「俺の負けになっちゃうか。」
まだ、捕まってくれるんだ。いつまで掴まってくれる? いつまでごっこ遊びに付き合ってくれる?
「だるまさんは泣けなかったんだな。」

6/10/2023, 2:57:05 PM

【やりたいこと】

死ぬまでにやりたいことリスト。そんな感じの手紙が置いてあった。いや、リストなんだけど。そっか、こんなん書いてあったんだ。入院しちゃったから服取りに来ただけなのに。こんなん見つけるなんて。
「持ってってやるか。」
「これ。」
「あ、見つけたんだ。」
「見つけるも何も机の上に置いてあったけどな。」
俺が知らなかったこいつのやりたいことリスト。ありきたりだけどこんなセリフもいいんじゃないかな。クサイけど。
「そのリスト俺らでやろうぜ。」
少しでも気が紛れるように。奇病を患ったこいつのために。独りにしないから死ぬなよなんて言えなくなった。

6/9/2023, 11:02:52 AM

【朝日の温もり】

朝起きて、一番にカーテン開けて。二番に顔を洗う。そのときの朝日の温もりっていったら清々しい。だから、曇ってる日は少しだけ気分が落ちちゃったりもするんだ。鏡を見て一言
「私、ブスくね? いや、全然今日も可愛かったわ。」
毎日の当たり前。毎日生きるための変わり映えない当たり前。朝食に今日は軽いもん食べる気分だからと適当に甘そうなパンを取り出して袋を開ける。食べて着替えて準備してすぐに出発。慌ただしくて楽しいかもしれない私の一日が始まった。歌いながら、行こうだなんて気分をあげるため。駅に着いて、鞄を前にかける。頑張ったしもう帰っていいかな、帰らない私偉すぎな。そんな、毎日。

6/8/2023, 10:32:06 AM

【岐路】

岐路がなんだってんだ。関係ないじゃないか。結局変わっていくのも出ていくのも俺じゃない。俺じゃないやつらが勝手に変わって勝手に嫌気がさして悪口叩いて出ていくんだ。そんな村のことをばあちゃんは馬鹿みてぇだと大笑いした。そりゃ、そうだと思う。でも、それと同時に家のばあちゃんすげぇって思ったんだ。強くて優しくて料理が美味い。ばあちゃんってすげぇ。
「スイカが食べたいな。」
ある冬の時期からもう少し、もう少しだ、と。ばあちゃんが言うようになった。何がもう少しなの、と聞いても答えちゃくれない。今の季節は夏。うちわで仰ぎながらあちぃなって思ってたら急にばあちゃんが言い出した。
「仕方ないな。」
なんとなくだけど、ばあちゃんは今外に出しては行けない気がした。暑さで倒れてしまうとかそんなんじゃない。ただ、何となく。虫の知らせとでも言うのだろうか。いつも吠えてくる犬の家を素通りして坂道をダッシュで駆け上がる。このスイカが冷たいうちに、と。もう冷たくないかもしれない。それでも、できるだけ。できるだけ、早く。部屋に帰ると嫌に静かな部屋が俺を迎えてくる。変わっちゃいない、関係ない。岐路がなんだってんだ。人生の岐路ってなんだよ。今の生活が変わることなんて、ありえない。外にいる時に母さんから電話が来た。いつ付けたのか知らない体調管理の為の物に異変があったからばあちゃんの様子を見てくれって。我儘なんて聞かずにここにいればよかった。間に合え、そんな一心で駆け上がった。
「ただいま。」
スイカはまだ冷たかった。

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