たなか。

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5/27/2023, 3:36:12 PM

【天国と地獄】

位置についてよーいドン!
威勢よく運動会の定番の天国と地獄が流れ始める。
「1組早いです!2組追い抜きます!」
そんな感じのアナウンスが場内を盛り上げる。私は今日も最下位。一位なんてとれたことない。そんな中、手を引かれた。
「連日通りにすれば大丈夫だから。バトン受け取るから。」
って。ロマンチストじゃん。

5/26/2023, 6:11:32 PM

【月に願いを】

 月に願いを込めるのならば何を願うだろう。私はきっと今ならば帰りたくないと願う。空に向かって空虚に向かってどうか、私を連れ戻すなかれと語り掛ける。報われなくてもいい。ただ、この人の死を、永遠を、一瞬を。この目で見届けたい。そう願ってしまったんだ。だから、どうか
「連れ戻さないでくれ。」
「月に向かって語り掛けているんですか。相も変わらず、私がしないようなロマンチストみたいなことをしてくださる。」
 後ろからかけられた声に耳が反応する。騒ぐな、心臓。
「うるさいぞ。ロマンチストでも何でもない。ただの、上を向いてしまっただけの独り言だ。」
 嘘じゃない。月に、空虚に向けた独り言。大きいだろうか、いや私からしてみれば小さすぎるくらいだ。ふと、気になって、下を見てみれば大勢の人、ひと、ヒト。見るんじゃなかったと後悔してしまうほど。次の台詞は何だっけ。私は何者なんだっただろうか。
「余所見ですか、私がこんなにも熱烈な視線を送っているというのに。」
「何をする、前が見えないぞ。」
 突然、後ろから目の前を暗くされる。手で覆われた真っ黒な視界。全く、台本にはない。アドリブなんていきなりで、演技じゃなく全くの本心から出た言葉。どっちがロマンチストだ。さっきのだって聞いていない。私以外だったらどうしていたというのだろう。視界が開けると眼前に見目麗しい誰もが恋するであろう王子様、そんな風に見える奴の顔。
「近い。」
「近づけてるんです、帰らないでくださいよってお願いのために。」
 この台本の中のこいつも現実のこいつも策士だろう。じゃなきゃ、下の黄色い悲鳴が嘘になる。嘘にはさせない。だから。
「私は帰るよ。この綺麗な藤の花が見れなくなるのは残念だけどな。」
 台本の中だと、この場面はこれで終了だった。だから、安堵していたんだ。知らないわけない、この言葉。
「私としてはもう少し惜しんでくれてもいいんですけどね。それはそうと、ほら月が綺麗ですよ。」
 今なら死んでもいい。そう、思った。月に願いを込めるなんて充分
「ロマンチストだ。」
 これ以降のアドリブはなく、劇が無事に終わった後。アドリブが多くてすごかったなんて言われたけどそれは王子様に吸い込まれただけでしかなかった。学園祭の出し物でここまでやるか、なんて野暮なことは言わない。みんなが楽しんでくれたらそれでいいんだ。そうして劇中の想いを静かに月に帰ったお姫様の元に投げた。
「藤の花に酔いしれて、か。」

5/25/2023, 3:24:21 PM

【いつまでも降り止まない、雨】

 行き場のない衝動をこの静かな雨でかき消そうとする。いつまでも降り止まない、雨。起きてからずっと曇りっぱなし、暗い空。それらすべてが仕方ないからというように俺の涙を隠そうとする。
「泣いてんの。」
「気にする必要はないでしょ。」
「必要は、ね。」
 察したように、無言で一枚のちり紙を差し出される。求めてはない。湿気で少しだけ湿っている気がするちり紙に喜んでもいいかな。君が泣かせたんだ。振られたわけじゃないけど、振られたみたいなもんだろ。告白されて了解してるところを見たんだから。ずっと、好きだった。
「気づいてなかったでしょ、演技。お願いしたんだ、振り向かせたくて。」
 きょとんしている間に口を奪われた。
「これで、気づいてよ。」
 みるみると顔が赤くなっていくのを自覚した。
「そろそろ気づいていいかもしれん。なぁ、俺もお前のことずっと好きだった。」
 流れるようなお互いの好き。もう一度、唇を奪われた。振り止まない雨が俺たちの熱い体温を必死に隠そうとしていた。

5/24/2023, 3:47:34 PM

【あの頃の不安だった私へ】

 今の私が元気なのか分かりますか、あの頃の不安だった私へ。なんて、一昨日きやがれくらいには意味が分からない書置きっていうか手紙。起きたらこんな手紙が置いてあった。生憎、昨日は珍しくお酒を浴びるほど飲んでしまったので記憶はない。寝る前に何をしていたかとか覚えていない。独りで酒に溺れていたんだ。迷惑はかけていないはずと思ったらこいつ誰。知らないやつか。
「ん? 知らないやつぅ!?」
 思わず叫び声をあげたが、その見知らぬ誰かは起きやしない。いや、ありがたいけど。いや、誰だよ。私、何したんだ。てか、こいつ尻尾生えてね?
「ん、誰お前。てか、ここどこ。」
 いや、私が知りたい。あの頃の不安だった私へ。なぜかわからないけど私が起きたら目の前に悪魔らしき何かがいたらしいです。

5/23/2023, 3:50:47 PM

【逃れられない呪縛】

 駆けだした、逃れられない呪縛から。飛び出した、自由を求めるために。逃れられないのになんで走っているんだなんて馬鹿な質問。いいじゃん。
「呪いをかけた本人しか解けないなんて、馬鹿みたい。」

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