たなか。

Open App
4/22/2023, 6:25:09 PM

【たとえ間違いだったとしても】

たとえ間違いだったとしても、もういいから。もういいから、一度だけ。やり直せるならきっと、後悔しない方より後悔する道を選ぶと思う。それでも、手に入れたかった。君の幸せとか考えられないから。
「もう一度連れていくよ。」
夢の中に。手を取って、彼女の意識をもう一度こちらへ。本来はいるべき場所でない場所へ。なんせ、悪役なんだ。悪役っぽい悪いことをしなきゃ。人攫いなんて悪役っぽいでしょう?
「君が望まなくてもずっと傍に。」
「なんかさ、こうなる気がしてたの。連れ去るくらいならどこまで連れ去ってくれる?」
ビー玉じゃないその目には僕にない光があった。君は目を光らせてくれるんだ。僕の我儘にも付き合ってくれるんだ。きっと、君がこちらの世界に呼ばれて悪夢しか見れなくなる前になんとかしてくれたのは正解だった。元の世界に帰って元気に暮らすのが正解なはずたったのに。たとえ間違いだったとしてもそれが僕のための最適解だったから。君なしじゃいられないのはずっと僕だったかもしれない。
「夜は寂しくて何かに縋りついてないと寝られないんだ。僕が悪夢を見なくなるまで。君にこの世界を見てほしい。」
「独りは寂しいもんね。分かるよ、貴方が望むならいつまででもきっと囚われていてあげる。」

4/21/2023, 5:47:32 PM

【雫】

無機質な雫を垂れ流す。舐めたらなんかしょっぱくて、心が少しだけ痛くなった。これは汗だからなんて言い訳。負けたんだ、賭けに。試合に負けた。
「負けたらご褒美、約束でしょ?」
癪に障る。声をかける時を選べよと言った顔で見つめてみると少し笑われた。
「泣いてんの?」
お前に負けたから。あと一点とかじゃない。ぼろ負けだった。こいつだけには負けちゃダメなのに。約束したから。
「分かった、付き合うだけね。」
罰ゲームでしょ。好きな人となはずなのに。ちゃんと告白したかった。

4/20/2023, 4:24:16 PM

【何もいらない】

いつもは言わないような声で告げた。
「何もいらない。」
「誕生日なのにいいの?」
いいんだ。ほしい物はどうせ、失くしてしまうから。失くされてしまうから。ほしい物は全部あいつの物。僕にあげれるほど神様の懐は広くないらしい。才能だって人だって。
「だって、同じ誕生日じゃん。出費が重なっちゃう。」
「でも、」
「いいの。」
想いがないならくれなくてもいいから。突っぱねた。でも、彼女だけは。彼女のことだけは。渡したくなくて。府病巣に奪い去れるくらいの勇気すらくれないらしい。
「プレゼント、何が欲しいの?」
「君って言ったら?」
真剣に答えてよ、なんて少しだけ怒られる。真剣なんだけどな。
「お揃いのキーホルダー、センスは任せる。」
昔、あいつと一度だけ平等になれたものだったから。仕方ない。引きずるなんて子どもっぽいかな。分かってほしくて仕方がない。彼女が清楚に笑ってから告げる。
「ほしいものくらい分かってるよ。でも、あげられないの。ごめんね。」
やっぱり、不公平なだけじゃんか。何もいらないよ。

4/19/2023, 3:36:14 PM

【もしも未来を見れるなら】

私の中で見れるものは限られていた。過去と五分先だけ。もしも未来を見れるなら。もしも、五分先以外も見れるなら。私は君と仲良くなる未来を見て君と喧嘩しない過去を作りたかった。
「先生、僕の行動を予測してまた止めるんですか?」
聞き飽きて、この目も見慣れてしまった。私は君と先生と生徒じゃなくてお友だちになりたかった。

4/18/2023, 2:16:56 PM

【無色の世界】

無色の世界を赤色で彩った。
「父さん、誕生日おめでとう。」
目の前で血に濡れた人が横たわっていた、僕のせいで。僕からの誕生日プレゼントは安らかな眠りだった。今まで幸せでしたか。今まで生きてきて自分の妻に、息子に、恨みを持ったことはありましたか。
「スカート汚れちゃってるよ。」
スカートについた血を最悪だと、不満気な目で見てからつぶやく。
「こんな身なりでごめんね。」
血に濡れた顔を拭って顔に当たる水をそのまま身に受ける。兄に顔を向けると笑われた。
「新しいスカート買ってやるって。」

Next