【何もいらない】
いつもは言わないような声で告げた。
「何もいらない。」
「誕生日なのにいいの?」
いいんだ。ほしい物はどうせ、失くしてしまうから。失くされてしまうから。ほしい物は全部あいつの物。僕にあげれるほど神様の懐は広くないらしい。才能だって人だって。
「だって、同じ誕生日じゃん。出費が重なっちゃう。」
「でも、」
「いいの。」
想いがないならくれなくてもいいから。突っぱねた。でも、彼女だけは。彼女のことだけは。渡したくなくて。府病巣に奪い去れるくらいの勇気すらくれないらしい。
「プレゼント、何が欲しいの?」
「君って言ったら?」
真剣に答えてよ、なんて少しだけ怒られる。真剣なんだけどな。
「お揃いのキーホルダー、センスは任せる。」
昔、あいつと一度だけ平等になれたものだったから。仕方ない。引きずるなんて子どもっぽいかな。分かってほしくて仕方がない。彼女が清楚に笑ってから告げる。
「ほしいものくらい分かってるよ。でも、あげられないの。ごめんね。」
やっぱり、不公平なだけじゃんか。何もいらないよ。
4/20/2023, 4:24:16 PM