【何もいらない】
いつもは言わないような声で告げた。
「何もいらない。」
「誕生日なのにいいの?」
いいんだ。ほしい物はどうせ、失くしてしまうから。失くされてしまうから。ほしい物は全部あいつの物。僕にあげれるほど神様の懐は広くないらしい。才能だって人だって。
「だって、同じ誕生日じゃん。出費が重なっちゃう。」
「でも、」
「いいの。」
想いがないならくれなくてもいいから。突っぱねた。でも、彼女だけは。彼女のことだけは。渡したくなくて。府病巣に奪い去れるくらいの勇気すらくれないらしい。
「プレゼント、何が欲しいの?」
「君って言ったら?」
真剣に答えてよ、なんて少しだけ怒られる。真剣なんだけどな。
「お揃いのキーホルダー、センスは任せる。」
昔、あいつと一度だけ平等になれたものだったから。仕方ない。引きずるなんて子どもっぽいかな。分かってほしくて仕方がない。彼女が清楚に笑ってから告げる。
「ほしいものくらい分かってるよ。でも、あげられないの。ごめんね。」
やっぱり、不公平なだけじゃんか。何もいらないよ。
【もしも未来を見れるなら】
私の中で見れるものは限られていた。過去と五分先だけ。もしも未来を見れるなら。もしも、五分先以外も見れるなら。私は君と仲良くなる未来を見て君と喧嘩しない過去を作りたかった。
「先生、僕の行動を予測してまた止めるんですか?」
聞き飽きて、この目も見慣れてしまった。私は君と先生と生徒じゃなくてお友だちになりたかった。
【無色の世界】
無色の世界を赤色で彩った。
「父さん、誕生日おめでとう。」
目の前で血に濡れた人が横たわっていた、僕のせいで。僕からの誕生日プレゼントは安らかな眠りだった。今まで幸せでしたか。今まで生きてきて自分の妻に、息子に、恨みを持ったことはありましたか。
「スカート汚れちゃってるよ。」
スカートについた血を最悪だと、不満気な目で見てからつぶやく。
「こんな身なりでごめんね。」
血に濡れた顔を拭って顔に当たる水をそのまま身に受ける。兄に顔を向けると笑われた。
「新しいスカート買ってやるって。」
【桜散る】
吹雪いてきたときに、目に入るのが怖くて後ろを向いてたら偶然目があったんだ。いや、あってしまったんだ。桜散る木の下でもう一度会えるなんて思ってなかった。
「久しぶり。」
一瞬驚いた顔をしてしまったが、すぐに平静を装って返事を返す。ぎこちない。
「久しぶり、こんなところで何してんの?」
「何してんのって、ここ家の近所。」
知っていた。だって、前までここに住んでたし。近所で私とこいつともう一人で仲良くつるんでいたし。それが当たり前だったのに私が変えたんだ。
「お前こそ何してんの。まさか、ストーカー?」
「なわけ、一時的な帰省。」
ふざけて語りかけてくる調子は昔と変わってない。むしろなんでこんな変わらないんだよ。
「ここでさ、桜散るの久しぶりに見た。」
「俺も久しぶりにお前のこと見た。連絡残さずに消えるしてっきり死んだかと。」
「勝手に殺すな、てか連絡よこしても見ないでしょ。」
そんな会話にあいつの名前は一切出ない。今更、私から置いて行った二人のことを気にかけるようなことは言えないけど。うまくやってるのとか、病気してないかとか。喉元でどうしても突っかかる。
「ねぇ、あの時さ選んでたらどうなってたかな。」
「俺らのどっちかがお前のこと幸せにしてたよ。」
選ぶのが怖くて、どちらかを傷つけてしまうリスクが怖くて。あえて、離れたんだ。会うと思ってなかったから。
「今でも俺らはお前のこと好きだよ。な。」
彼は電話を掲げて私に通話の画面を見せる。息を呑む。もう一度、吹雪いて私の後ろ姿をさらう。
「また、連絡してよ。もう残酷な選択とかさせないから。」
「連絡、見ないくせによく言う。」
どんな顔してたんだろう。きっと、桜吹雪が私の前で起こって顔を隠してくれるくらい変な顔だったんだろうな。我儘にも、私。二人に恋してる。また、変な顔って馬鹿にしてよ。馬鹿だなお前はって笑ってよ。
「俺ら、お前のこと好きだから。」
分かってるって。
【ここではない、どこかで】
眠れない夜に散歩をするなんてよくあった。理由は風が気持ちいいからとかコンビニに行きたいからとかそんなもん。ここではない、どこかで何かをしてたいだけ。息が詰まるから。そんな人が近所で私以外にもう一人いるとか奇跡あるんだ、そんな風に思っていた。彼は彼で大変らしい。二人とも少し暇をつぶすだけの公園でたまたま会っただけ。自分以外で深夜にブランコに乗る先客が珍しくて変だと思って声をかけてしまったんだ。
「よかったら、お酒一緒に飲みませんか?」
コンビニで買っただけの缶のお酒。一人で飲むのも空しかったのかもしれない。彼と話してる時の中身のあるようでないような会話が心地よかった。いつも通り散歩をして公園に行っていつもは先にいるのに今日はいなかったってそれが普通だったのに。元からいないのが普通で、話してたのが異常だったかもしれない。その日から、一人でまた虚しく酒を呷るようになった。ある日のニュースのこと。高校生の男の子が死んだといういつもなら気にしないようなニュース。そのニュースには知った顔が映っていた。公園のあの子。
「あー、あの子高校生だったんだ。」
未成年飲酒か。ここではない、どこかでなら許されていたのかな。ちょっとは好きになってきてたのに。