【届かぬ想い】
嫌いになった。元から嫌いだった。好きになりたくなくて顔も見たくなくてその優しさが声が勘違いさせるから大嫌いだ。こんなので勘違いしてしまう自分が嫌いだった。高鳴るな、胸。口角あげるな、顔。届かぬ想いは実らないでよ。
「今日は顔、見てくれないんだね。」
「いっつも見てるわけじゃないから。」
好きと自覚してからまともに見れなくなったなんて誰が言えるか。恥ずかしくて顔も見れなきゃ声すらかけられたくない。最初は推しって言って話してたはずなのに。
「最近は推しって言わなくなったじゃん。」
「そういう、気分。」
名乗る権利すらない。きっと、周りから好かれているこの人に近づきたくはないのに。なんで、話しかけてくるんだろう。私の届かぬ想いをからかうな、なんてきっと優しさだから無理な話。なら、その顔私だけにしてよ、なんて我儘。愛してるとかも言えない。
「もしここでキスしたら怒っちゃう?」
ほら、そういうとこ。勘違いさせないでよ。こないだ、ほかの子にも言ってたくせに。してはなかったけど。
「からかうの良くないと思うけど。オタクをからかう推しのそれじゃん。」
「怒んないわけだ。」
そう言って、唇と唇を重ねた。推しとオタクの距離してない。だから、勘違いしたくないって。
「勘違いじゃないからさ、怒んないでよ。」
届かぬ想いでよかったのに。勘違いがよかったのに。嫌われるくらいなら好きにならないでよ。
【神様へ】
どうか、お願い。この声だけは。
「神様なんていなかった。」
そう、気づいたのは高校に上がる頃。平等とかはなくて神は才能を与えすぎたとかよく言うけれどそれの典型例が隣にいるんじゃ仕方ない。天賦の才。みんなそんな風にもてはやす。調子に乗らずに謙遜して誰にでも優しくする才能。どんな人でもたらし込む才能。俺だって例外じゃない。こいつのそういうところに惚れたから。
「何、ぼーっとしてんだよ。移動教室、置いてくぞ。」
ふと我に返ると頭を小突かれ時計がさすのはチャイムが鳴る五分前。机の上に用意しておいた持ち物を持って教室を出た。授業の時も、部活の時も、何かを考えて止まることが増えた気がする。どんなことに熱中していたってよぎってくるんだから塞ぎようがなかった。
「最近、お前おかしいけどなんかあったの?」
おかしいも何もお前のせいだなんて言葉は喉にすら引っかからない。無言で首を横に振ってアイスをほおばる。冷たすぎて眉間にしわが寄った。
「俺さ、彼女出来たんだよね。」
相も変わらずアイスをほおばる俺は首を振るだけ。二人とも喋らなくてセミの声が沈黙を遮るだけ。食べ終わったアイスのごみを小さくして、こいつが食べ終わるのを待って座ったままチラと横目に見る。
「おめでと。」
喜ぶとか泣くとかはしないけど。特に、祝いも出来なかった。
「泣かないんだな。」
「泣いてほしかったかよ。」
泣いてほしかったって言われてもきっと泣いてやれないけど。告白されたことを忘れたわけじゃない。むしろ、それで意識し始めたこともあった。
「嘘ってわかってんだろ。告白のこと。」
「幸せになれよ。」
どうか、お願い。今だけは神様この声を無視させてください。
【快晴】
ピクニックに行こうって、言われた。晴れた日がいいって言ってた。快晴の風がそよぐくらいのちょうどいい日。
「今日は動いてもいい日?」
「適度な運動。動かなきゃ行けない日。」
身体が弱い彼女は外に出るのもしんどいはずだった。だから、外に出ることも少ない。それなのに、彼女がここに来たってことはそういうことだ。
「ここに来た理由、聞いてもいい?」
「いいよ。」
理由を聞いた後に彼女の命を奪った。仕方のないことだった。きっと、こうするしかなかった。彼女の願いを叶えただけ。
【遠くの空へ】
手を伸ばした、あの人が迎えに来てくれると思って。痺れを切らした、いつになっても殺しに来てくれなくて。恨まれてもいいのに。妬まれるべきなのに。
「迎えに来たんだけど、待ってたのはお前じゃないみたいな顔してくれるじゃん。」
あまりの暑さに顔をしかめただけ。どれくらい経ったんだろう。一年かな。一年だけなのにとんでもない年数待っているような気がしてしまう。
「答えてくれないんだ。まぁ、いいけどさ。今日はどこでも連れて行ってあげるつもりで来たんだけど。」
どこか遠くへ。遠くの空へ飛び立てるなら真っ先に貴方の元へ飛んでいきたい。
「命日とかさ、一番思い出しちゃうもんなんだよ。」
いなくなるとか聞いてなかった。墓前で手を合わせてあの時と同じようにすすり泣く。どこでも連れて行ってくれるって約束したから。
「ハグしようとしたらすり抜けちゃうからさ。」
「殺してよ。同じところに逝かせてよ。」
「墓前でそんなこと言わないの。でも、また会えたんだからさ。」
流れる涙を拭いてくれる人は隣にいない。遠くの空へ逝ってしまったから。透ける水が暑さで顔に張り付いて気持ち悪い。会いたいよ。
「触れてあげたいよ。」
すり抜けた思いは交わることなく終わったんだ。そんな気がして仕方がない。誰だよ。私に命日だと死んだ人に会えるって言ったの。あ、貴方だ。そういえば、今日薬飲んでなかったな。急いで薬を出したけど暑さの中無理をしたこともあって遅かった。急にクラっと来て目の前が歪んでしまう。
「こんなんで会いたくなかったんだけど。」
「待ってたのは私じゃないみたいな顔してるじゃん。私はずっと待ってたのに。」
クラっとした拍子に頭をぶつけたらしくまぬけに逝ったもんだ。でも、これなら願ったりかなったりなのかもしれない。
「どこでも連れて行ってくれるんでしょ、連れてってよ。」
【言葉にできない】
家を出ていく時の気持ちは最悪。喧嘩するとか思ってなかったから。でも、ひどい。私の買ってきたプレゼントを台無しにしたんだ。あげるつもりだったのに。いくら怒っているからってさすがにない。
「せっかく選んだのに。」
怒りよりも悲しみが強くって。初めてだった。これだけ選んで決めたのに。後ろから追いかけてくるエンジン音がした。聞き慣れたエンジン音。
「ごめん、怒ってた理由とかもしょうもないんだけどさ。」
「許さない。一緒にプレゼント選び直してくれるまで許さない。」
ここで本当に言いたいことが言葉にできないのが悪い癖なんだと思う。こんな人やってけない。分かってる。今に後悔するよ。別れたいって言えなかったな。言葉のナイフを心の底に隠しこんで見えなくなったから。この人は知らない。私の言葉に出来ない本心を。