たなか。

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【神様へ】

どうか、お願い。この声だけは。
「神様なんていなかった。」
そう、気づいたのは高校に上がる頃。平等とかはなくて神は才能を与えすぎたとかよく言うけれどそれの典型例が隣にいるんじゃ仕方ない。天賦の才。みんなそんな風にもてはやす。調子に乗らずに謙遜して誰にでも優しくする才能。どんな人でもたらし込む才能。俺だって例外じゃない。こいつのそういうところに惚れたから。
「何、ぼーっとしてんだよ。移動教室、置いてくぞ。」
ふと我に返ると頭を小突かれ時計がさすのはチャイムが鳴る五分前。机の上に用意しておいた持ち物を持って教室を出た。授業の時も、部活の時も、何かを考えて止まることが増えた気がする。どんなことに熱中していたってよぎってくるんだから塞ぎようがなかった。
「最近、お前おかしいけどなんかあったの?」
おかしいも何もお前のせいだなんて言葉は喉にすら引っかからない。無言で首を横に振ってアイスをほおばる。冷たすぎて眉間にしわが寄った。
「俺さ、彼女出来たんだよね。」
相も変わらずアイスをほおばる俺は首を振るだけ。二人とも喋らなくてセミの声が沈黙を遮るだけ。食べ終わったアイスのごみを小さくして、こいつが食べ終わるのを待って座ったままチラと横目に見る。
「おめでと。」
喜ぶとか泣くとかはしないけど。特に、祝いも出来なかった。
「泣かないんだな。」
「泣いてほしかったかよ。」
泣いてほしかったって言われてもきっと泣いてやれないけど。告白されたことを忘れたわけじゃない。むしろ、それで意識し始めたこともあった。
「嘘ってわかってんだろ。告白のこと。」
「幸せになれよ。」
どうか、お願い。今だけは神様この声を無視させてください。

4/14/2023, 2:39:58 PM