【遠くの空へ】
手を伸ばした、あの人が迎えに来てくれると思って。痺れを切らした、いつになっても殺しに来てくれなくて。恨まれてもいいのに。妬まれるべきなのに。
「迎えに来たんだけど、待ってたのはお前じゃないみたいな顔してくれるじゃん。」
あまりの暑さに顔をしかめただけ。どれくらい経ったんだろう。一年かな。一年だけなのにとんでもない年数待っているような気がしてしまう。
「答えてくれないんだ。まぁ、いいけどさ。今日はどこでも連れて行ってあげるつもりで来たんだけど。」
どこか遠くへ。遠くの空へ飛び立てるなら真っ先に貴方の元へ飛んでいきたい。
「命日とかさ、一番思い出しちゃうもんなんだよ。」
いなくなるとか聞いてなかった。墓前で手を合わせてあの時と同じようにすすり泣く。どこでも連れて行ってくれるって約束したから。
「ハグしようとしたらすり抜けちゃうからさ。」
「殺してよ。同じところに逝かせてよ。」
「墓前でそんなこと言わないの。でも、また会えたんだからさ。」
流れる涙を拭いてくれる人は隣にいない。遠くの空へ逝ってしまったから。透ける水が暑さで顔に張り付いて気持ち悪い。会いたいよ。
「触れてあげたいよ。」
すり抜けた思いは交わることなく終わったんだ。そんな気がして仕方がない。誰だよ。私に命日だと死んだ人に会えるって言ったの。あ、貴方だ。そういえば、今日薬飲んでなかったな。急いで薬を出したけど暑さの中無理をしたこともあって遅かった。急にクラっと来て目の前が歪んでしまう。
「こんなんで会いたくなかったんだけど。」
「待ってたのは私じゃないみたいな顔してるじゃん。私はずっと待ってたのに。」
クラっとした拍子に頭をぶつけたらしくまぬけに逝ったもんだ。でも、これなら願ったりかなったりなのかもしれない。
「どこでも連れて行ってくれるんでしょ、連れてってよ。」
4/12/2023, 4:35:01 PM