小砂音

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5/8/2023, 10:33:47 AM

#43 一年後

過去に確かに在った
ある一定の一年間を思い返してみる
肩書きの変化はあれど
ゲームのログのような
思い出の証のためだけに作られた
形に残るお土産めいたものは
あまりなかった

作品を作ることは
自分を遺すことだ

だから、つまり、わたしは
わたしに纏わるものを
なるべく残しておきたくなくて
持ち物を減らそうという思考を取ってきたけれど
その実、結局は、
わたしの毛嫌いしている
「わたしが生きた証」を創作することに
拘り続けている

認めたくはなかったけれど
きっと、一年後、一年前の今を物語る
作品を見返したいと思うのだろう
x歳x日の自分を
少しでも覗き込んでみたいと思うのだろう
まるで他人のように

だからわたしは
毎日続けようと思う

書くことと読むことを
毎日続けようと思う

5/7/2023, 11:49:36 AM

#42 初恋の日

ぼくは恋をしたことがないし
恋がどういうものなのかも分からないし
知ることのできない人間だ。

だけど一昨年、旗日が無いという理由で
6月に「初恋の日」という
時代に逆行するような祝日ができて
その恩恵にはあずかっている。

雨の音しかしない静かなアパートで
コーヒーを飲みながら本を読んでいる。
仕事から逃れ、
のびのびと休日を満喫している。

でも、それでも。
結局は読書に集中することができなかった。
ため息が、雨音に呑まれて消えてゆく。

今日が一体何を祝う日なのか、
祝日を作った奴らを含め
ぼく以外の人間だって本当のところ
誰一人として分かっちゃいないのだ。

5/7/2023, 6:54:36 AM

#41 明日世界がなくなるとしたら、何を願おう。

叶わないと
分かりきったことを願うなら
きみのことがいい

世界がなくなる前日に
虚しくて
ありきたりで
自分勝手なことしか願えない

ここまで来たら
自己嫌悪だなんていう
どこか青い感情を通り越して
汚いものはすべて
墓場まで
ぼくごと仕舞い込んでしまいたくなった

最後のとき
きみはぼくの隣を選びますように……

きみのしあわせを願えないぼくは
世界がなくなるその瞬間まで
ゴミ屑のような人間性で在るべきだ

5/5/2023, 12:31:51 PM

#40 君と出逢ってから、私は・・・

君と出逢ってから、わたしは。
夜に眠れない理由が変わってしまった。

5/4/2023, 12:42:52 PM

#35 楽園

期間限定のワンシーズン
白雨の中のワンルーム

映画を観よう
アイスクリームを半分こにしよう
悲しみはきみと二人
薄水色のソーダで割ろう

別れが約束された
あの束の間の楽園にはもう戻れない
二度と行けないし
二度と手に入らない

だけど、だからこそ
あの部屋とあの時代は
紛れも無い
ぼくらの楽園だったのだ

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#39 大地に寝転び雲が流れる・・・目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?

わたしの父は中学生の頃、よくこうして学校をサボっていたらしい。

同じように目を閉じて思い出したのは、そんな、型にはまらない自分の青春時代に誇らしさを隠しきれてない、父のどこか得意げは笑顔だった。

高校2年から特進クラスに進んだわたしは、急にスピードを増し出した授業に着いていけなくなってきていた。
夏休みを迎えて1週間ほど経った今も、緊張感に満ちた、特進クラスだけの特別な夏期講習が始まっている。

仲のいい友だちともクラスが分かれ、勉強も難しく、成績も自信も愛嬌も何もかもを落として鬱々としていたわたしは、気がつくと、学校とは真逆の道を自転車で駆けていた。

なるべく知らない道を進んだ。
そうしたら、おあつらえ向きな河川敷が現れたので、セオリーに則り、夏服に包まれた体を、青い芝生に預けているというわけだ。

父は、授業をサボるのは自由で楽しかったと言う。
いや、これは楽天家を装った嘘かもしれないが、とにもかくにも、学校にも家にも居たくはなかったのは事実だろう。

今のわたしも夏期講習に行くと言って家を出た手前、そう簡単には帰れなかった。かと言って、行く宛もない。

行きたくないところ、やりたくないことはあふれているのに、行きたい場所ややりたいことが何なのか、自分のことなのに何一つ分からない。……眩しいほどに、憂鬱だった。

それに何より、大地に寝転び雲が流れる空を見るのは、期待はずれも甚だしかった。

暑くて日焼け止めが効いているのか不安になる。
芝生は柔らかくなどなく、硬くてチクチクして寝心地が悪い。
虫が脚を歩き出したら嫌だし、スカートが変な風になっていないか気になる。
眩しくて、泣きそうで、今ものすごいブスな顔をしているはずだし、
サボる行為は開放感よりも、罪悪感や緊張感の方がはるかに勝る。

飄々と生きた父の娘なのに、なぜ“こう”なのだろう。

自分がいかに不自由なのか、こんなにも自由なはずの時間に、ありありと思い知らされた。

容易に想像ができて、溜息が溢れた。
苛立ちに叫び出したくなった。

どうせわたしは明日、何事もなかったように、鬱々と夏期講習を受けているのだろう。

誰か、誰か、誰でもいい。
今すぐわたしを、どこかに連れてってくれ。

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