小砂音

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#35 楽園

期間限定のワンシーズン
白雨の中のワンルーム

映画を観よう
アイスクリームを半分こにしよう
悲しみはきみと二人
薄水色のソーダで割ろう

別れが約束された
あの束の間の楽園にはもう戻れない
二度と行けないし
二度と手に入らない

だけど、だからこそ
あの部屋とあの時代は
紛れも無い
ぼくらの楽園だったのだ

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#39 大地に寝転び雲が流れる・・・目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?

わたしの父は中学生の頃、よくこうして学校をサボっていたらしい。

同じように目を閉じて思い出したのは、そんな、型にはまらない自分の青春時代に誇らしさを隠しきれてない、父のどこか得意げは笑顔だった。

高校2年から特進クラスに進んだわたしは、急にスピードを増し出した授業に着いていけなくなってきていた。
夏休みを迎えて1週間ほど経った今も、緊張感に満ちた、特進クラスだけの特別な夏期講習が始まっている。

仲のいい友だちともクラスが分かれ、勉強も難しく、成績も自信も愛嬌も何もかもを落として鬱々としていたわたしは、気がつくと、学校とは真逆の道を自転車で駆けていた。

なるべく知らない道を進んだ。
そうしたら、おあつらえ向きな河川敷が現れたので、セオリーに則り、夏服に包まれた体を、青い芝生に預けているというわけだ。

父は、授業をサボるのは自由で楽しかったと言う。
いや、これは楽天家を装った嘘かもしれないが、とにもかくにも、学校にも家にも居たくはなかったのは事実だろう。

今のわたしも夏期講習に行くと言って家を出た手前、そう簡単には帰れなかった。かと言って、行く宛もない。

行きたくないところ、やりたくないことはあふれているのに、行きたい場所ややりたいことが何なのか、自分のことなのに何一つ分からない。……眩しいほどに、憂鬱だった。

それに何より、大地に寝転び雲が流れる空を見るのは、期待はずれも甚だしかった。

暑くて日焼け止めが効いているのか不安になる。
芝生は柔らかくなどなく、硬くてチクチクして寝心地が悪い。
虫が脚を歩き出したら嫌だし、スカートが変な風になっていないか気になる。
眩しくて、泣きそうで、今ものすごいブスな顔をしているはずだし、
サボる行為は開放感よりも、罪悪感や緊張感の方がはるかに勝る。

飄々と生きた父の娘なのに、なぜ“こう”なのだろう。

自分がいかに不自由なのか、こんなにも自由なはずの時間に、ありありと思い知らされた。

容易に想像ができて、溜息が溢れた。
苛立ちに叫び出したくなった。

どうせわたしは明日、何事もなかったように、鬱々と夏期講習を受けているのだろう。

誰か、誰か、誰でもいい。
今すぐわたしを、どこかに連れてってくれ。

5/4/2023, 12:42:52 PM