#38 「ありがとう」そんな言葉を伝えたかった。その人のことを思い浮かべて、言葉を綴ってみて。
小さな頃から何度も伝えてきた。
だけど、いざ別れの時間を迎えたときに
まったく言い足りなかったと
握った拳に後悔を隠したりした。
四隅の黄ばんだ古い文庫本の匂い、
野花の茎や花弁の湿り気、
柔らかい芯の鉛筆と水彩のタッチ、
わたしを本当に愛おしいと思っていることを
ありありと知らしめてくれる
腕に柔らかく沈んだ歯形の模様。
そういう、ありとあらゆる血の通ったシーンが
今のわたしの心の、
一番に濃い橙をした箇所に残っている。
常々、わたしのことを
ありがとうの言える優しい子だと、
皺を深くしながら伝えてくれた。
時に呪いだったのかと悩んだ時も
ほんの少しはあったけれど、
今は祝福であったと心から言える。
ありがとう。
祖父へ、祖母へ。
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#36 カラフル(2023/5/3 16:36:00)
ぼくは
きみの言葉
あなたの優しさ
アイツの怒り
彼らの訴え
彼女の愛らしさ
いろんな色に染め上げられながら
ぼくという色を形成する
そういうわけだから
ぼくは常々
今この瞬間が
最高にカラフルな人間だったりする
#37 優しくしないで
自己嫌悪からか
自暴自棄からか
理性的であろうとするあまりか
とにもかくにも
優しくしないでと嘆く人は
その特定の人にでも
周囲の人にでも
見知らぬ人にでも
とにもかくにも
相手の優しさに敏感な
優しい人だ
#32 生きる意味
ネガティブな意味ではなく、わたしたちは、これから生きていくことを望んだ上で生まれ落ちたわけではない。
つまり、だから、どんな内容にしろ、生きる意味は必ず後付けになってしまうんだなと、今日のテーマについて考えたときに気がついた。
わたしの生きる意味はなんだろうか。
生きることへの相応しい価値とはなんだろうか。
こんなにも人口減少が叫ばれていても、それでもこの先も続いていく、当人の意志を無視した勝手な生命の誕生(これもネガティブな意味合いは一切ない。命とは、命あるものの意志で与えられる、一番初めの素晴らしいプレゼントだと思う。本来は)。
生きている先人の者として、やはり、この場所と社会を利己的に利用してはならないと、苦々しく思い知らされる。
わたし1人に力はない。
ただ、いくら力が弱くても、できる限りのこと“以上の”ことをしたいと思った。
できる限りのことというのはたぶん、そこまで頑張らなくてもできる程度のことなのだ。
せめて気持ちだけでも、全力で、必死にやらなければと思った。
必死にやること、それが何かと言うと。
幸せを求めようとすることだ。
わたしは以前自分のことを「幸せを望まぬ、怠惰な人間である」と言った。
これはやめなければならない。
とんでもないことだった。
わたしは決して、幸せを望むことに怠惰であってはいけないのだ。
生きる以上、幸せは貪欲に求めなければならない。
いや、というよりも、本来人間は幸せを求めるものなのだ。
それを無視してはならない。
幸せなんて望んでなどいないと、嘘を吐き、スカしてはいけないのだ。
未来の、わたしと似たような人のために、わたしは幸せを求めなければならない。
生きることは幸せであると、人間として生まれることは素晴らしいことであると、社会を生きることは、生まれが選べないことは、女であることは、普通ではないことは、働くことは、経済を考えることは、本を読むことは、勉強をすることは、自然を好むことは――何事においても意味を持たせ、幸せで素晴らしいことであるという前例を作らなければならないのだ。
意味というより、使命に近いかもしれない。
少しだけ心を入れ替えて、生きていこうと思った。
もちろんそれは、のびのびと息を吸い、吐き出すことでしかできないことだ。
深く呼吸するためにも、わたしの生きる”理由”は変わらない。(#9)
だけど、わたしの生きる意味は、幸せになる(である)ためだ。
死ぬその時に、生きていることは幸せだったと思うためだ。
そしてそれを次の世代に――その目で見てもらえていなくても――見せるためだ。
熱っぽく語ったけど、無理して頑張りすぎるという意味ではない。
ただ、これまでよりも、努力することをとても前向きに捉えられたので、その努力をしようと思った。
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#26 雫(2023/4/26 22:00:00)
タクシーのリアドアの形をした額縁に
知らない東京の夜景が描かれている
そこには無数の雨の雫が散りばめられていて
仲間を喰べてある程度大きくなると
恐怖に打ち震えるような動作をしてから
滑るぼくの軌道に流れ落ちて散っていった
あの男に出会った、あの夜を思い出す
不思議な色に染められた一房の髪は
波打ち、ホテルの下卑た明かりを受けて
うんざりと紫色に縁取られていた
もう連絡先はおろか、顔も名前も声も、何も覚えていない
ただ残っているのは、宅録の荒い2分足らずの音源と
一度だけぼくの外側に触れたことのある
熱い一雫の感覚だけだ
#31 善悪
世界の何がどれだけ機械仕掛けになろうとも
善悪だけは、人間が問い続けなければならない
#30 流れ星に願いを
わたしは流れ星を見たことがほとんどない。
だからか、流れ星を見たらお願い事をしたくなるんだろうなって、どこか心地よい気持ちで想像することができる。
流れ星に乗せた願い事は、別に叶わなくたっていいし、叶うとも思ってない。
ただ、そういう自然の美しいものにお願い事をしたくなる気持ちが、すごく愛しいと思ってしまう。
御伽話に想いを馳せるような、非現実的な世界にうっとりしてしまうような、少し寂しげな癒しがある。
流れ星に願いをする、決して悲しくはない日が、いつか訪れますように。
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#25 何もいらない(18:09:00)
何もいらないってことはない。
だってその前に、○○さえあればって付けるでしょ?
わたしは何かな。
「穏やかな日々さえあれば、何もいらない」かな。
これじゃ望むものが大きすぎて、格好がつかないね。
かつて自分の×××を必要とせず、恋も必要以上なお金も望まないわたしは無欲な人間だと思っていたけど、勘違いだったんだな。
無欲であることは、人間にはやっぱり、難しいことだね。