小砂音

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5/4/2023, 12:42:52 PM

#35 楽園

期間限定のワンシーズン
白雨の中のワンルーム

映画を観よう
アイスクリームを半分こにしよう
悲しみはきみと二人
薄水色のソーダで割ろう

別れが約束された
あの束の間の楽園にはもう戻れない
二度と行けないし
二度と手に入らない

だけど、だからこそ
あの部屋とあの時代は
紛れも無い
ぼくらの楽園だったのだ

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#39 大地に寝転び雲が流れる・・・目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?

わたしの父は中学生の頃、よくこうして学校をサボっていたらしい。

同じように目を閉じて思い出したのは、そんな、型にはまらない自分の青春時代に誇らしさを隠しきれてない、父のどこか得意げは笑顔だった。

高校2年から特進クラスに進んだわたしは、急にスピードを増し出した授業に着いていけなくなってきていた。
夏休みを迎えて1週間ほど経った今も、緊張感に満ちた、特進クラスだけの特別な夏期講習が始まっている。

仲のいい友だちともクラスが分かれ、勉強も難しく、成績も自信も愛嬌も何もかもを落として鬱々としていたわたしは、気がつくと、学校とは真逆の道を自転車で駆けていた。

なるべく知らない道を進んだ。
そうしたら、おあつらえ向きな河川敷が現れたので、セオリーに則り、夏服に包まれた体を、青い芝生に預けているというわけだ。

父は、授業をサボるのは自由で楽しかったと言う。
いや、これは楽天家を装った嘘かもしれないが、とにもかくにも、学校にも家にも居たくはなかったのは事実だろう。

今のわたしも夏期講習に行くと言って家を出た手前、そう簡単には帰れなかった。かと言って、行く宛もない。

行きたくないところ、やりたくないことはあふれているのに、行きたい場所ややりたいことが何なのか、自分のことなのに何一つ分からない。……眩しいほどに、憂鬱だった。

それに何より、大地に寝転び雲が流れる空を見るのは、期待はずれも甚だしかった。

暑くて日焼け止めが効いているのか不安になる。
芝生は柔らかくなどなく、硬くてチクチクして寝心地が悪い。
虫が脚を歩き出したら嫌だし、スカートが変な風になっていないか気になる。
眩しくて、泣きそうで、今ものすごいブスな顔をしているはずだし、
サボる行為は開放感よりも、罪悪感や緊張感の方がはるかに勝る。

飄々と生きた父の娘なのに、なぜ“こう”なのだろう。

自分がいかに不自由なのか、こんなにも自由なはずの時間に、ありありと思い知らされた。

容易に想像ができて、溜息が溢れた。
苛立ちに叫び出したくなった。

どうせわたしは明日、何事もなかったように、鬱々と夏期講習を受けているのだろう。

誰か、誰か、誰でもいい。
今すぐわたしを、どこかに連れてってくれ。

5/3/2023, 1:26:47 PM

#38 「ありがとう」そんな言葉を伝えたかった。その人のことを思い浮かべて、言葉を綴ってみて。

小さな頃から何度も伝えてきた。
だけど、いざ別れの時間を迎えたときに
まったく言い足りなかったと
握った拳に後悔を隠したりした。

四隅の黄ばんだ古い文庫本の匂い、
野花の茎や花弁の湿り気、
柔らかい芯の鉛筆と水彩のタッチ、
わたしを本当に愛おしいと思っていることを
ありありと知らしめてくれる
腕に柔らかく沈んだ歯形の模様。

そういう、ありとあらゆる血の通ったシーンが
今のわたしの心の、
一番に濃い橙をした箇所に残っている。

常々、わたしのことを
ありがとうの言える優しい子だと、
皺を深くしながら伝えてくれた。
時に呪いだったのかと悩んだ時も
ほんの少しはあったけれど、
今は祝福であったと心から言える。

ありがとう。
祖父へ、祖母へ。

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#36 カラフル(2023/5/3 16:36:00)

ぼくは
きみの言葉
あなたの優しさ
アイツの怒り
彼らの訴え
彼女の愛らしさ
いろんな色に染め上げられながら
ぼくという色を形成する

そういうわけだから
ぼくは常々
今この瞬間が
最高にカラフルな人間だったりする

5/2/2023, 6:31:55 PM

#37 優しくしないで

自己嫌悪からか
自暴自棄からか
理性的であろうとするあまりか

とにもかくにも
優しくしないでと嘆く人は

その特定の人にでも
周囲の人にでも
見知らぬ人にでも

とにもかくにも
相手の優しさに敏感な
優しい人だ

4/27/2023, 11:34:54 AM

#32 生きる意味

ネガティブな意味ではなく、わたしたちは、これから生きていくことを望んだ上で生まれ落ちたわけではない。
つまり、だから、どんな内容にしろ、生きる意味は必ず後付けになってしまうんだなと、今日のテーマについて考えたときに気がついた。

わたしの生きる意味はなんだろうか。
生きることへの相応しい価値とはなんだろうか。

こんなにも人口減少が叫ばれていても、それでもこの先も続いていく、当人の意志を無視した勝手な生命の誕生(これもネガティブな意味合いは一切ない。命とは、命あるものの意志で与えられる、一番初めの素晴らしいプレゼントだと思う。本来は)。
生きている先人の者として、やはり、この場所と社会を利己的に利用してはならないと、苦々しく思い知らされる。

わたし1人に力はない。
ただ、いくら力が弱くても、できる限りのこと“以上の”ことをしたいと思った。
できる限りのことというのはたぶん、そこまで頑張らなくてもできる程度のことなのだ。
せめて気持ちだけでも、全力で、必死にやらなければと思った。

必死にやること、それが何かと言うと。
幸せを求めようとすることだ。

わたしは以前自分のことを「幸せを望まぬ、怠惰な人間である」と言った。
これはやめなければならない。
とんでもないことだった。
わたしは決して、幸せを望むことに怠惰であってはいけないのだ。

生きる以上、幸せは貪欲に求めなければならない。
いや、というよりも、本来人間は幸せを求めるものなのだ。
それを無視してはならない。
幸せなんて望んでなどいないと、嘘を吐き、スカしてはいけないのだ。

未来の、わたしと似たような人のために、わたしは幸せを求めなければならない。
生きることは幸せであると、人間として生まれることは素晴らしいことであると、社会を生きることは、生まれが選べないことは、女であることは、普通ではないことは、働くことは、経済を考えることは、本を読むことは、勉強をすることは、自然を好むことは――何事においても意味を持たせ、幸せで素晴らしいことであるという前例を作らなければならないのだ。
意味というより、使命に近いかもしれない。

少しだけ心を入れ替えて、生きていこうと思った。
もちろんそれは、のびのびと息を吸い、吐き出すことでしかできないことだ。

深く呼吸するためにも、わたしの生きる”理由”は変わらない。(#9)
だけど、わたしの生きる意味は、幸せになる(である)ためだ。
死ぬその時に、生きていることは幸せだったと思うためだ。
そしてそれを次の世代に――その目で見てもらえていなくても――見せるためだ。

熱っぽく語ったけど、無理して頑張りすぎるという意味ではない。
ただ、これまでよりも、努力することをとても前向きに捉えられたので、その努力をしようと思った。

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#26 雫(2023/4/26 22:00:00)

タクシーのリアドアの形をした額縁に
知らない東京の夜景が描かれている
そこには無数の雨の雫が散りばめられていて
仲間を喰べてある程度大きくなると
恐怖に打ち震えるような動作をしてから
滑るぼくの軌道に流れ落ちて散っていった

あの男に出会った、あの夜を思い出す

不思議な色に染められた一房の髪は
波打ち、ホテルの下卑た明かりを受けて
うんざりと紫色に縁取られていた

もう連絡先はおろか、顔も名前も声も、何も覚えていない

ただ残っているのは、宅録の荒い2分足らずの音源と
一度だけぼくの外側に触れたことのある
熱い一雫の感覚だけだ

4/26/2023, 10:16:55 AM

#31 善悪

世界の何がどれだけ機械仕掛けになろうとも
善悪だけは、人間が問い続けなければならない

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