小砂音

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4/9/2023, 2:36:06 PM

#14 誰よりも、ずっと

――“誰よりも、ずっと”?
こんな枕詞、自分に対して使えと言われたら、次に何を付けたって烏滸がましくなるじゃないか。
他人のことなんて、理解しようったって無理だというのに。
そんな誰かを、自分との比較の土俵に上げるというのか。

でも、そうだな。
このフレーズを使えるような人間になることを、今から目標にしたっていい。

誰よりも、ずっと。
わたしは考え、それを元に生きる人になりたい。

誰よりも、ずっと。
この後に続く素敵な言葉を、その誰かという相手に伝える人にわたしはなりたい。

4/8/2023, 4:49:24 PM

#13 これからも、ずっと

「これからも、ずっと」

なんて使い所の少ない言葉だろう。
現状に満足した状態で、ずっとだなんて極論無理なものを願掛けるような文。

だけどそんな穴だらけの言葉に、救われるわたしがいる。
つい、口を突いてしまうわたしがいる。

かなしい優しさから生まれる言葉なのかもしれない。
冷たい情熱が言わせる言葉なのかもしれない。

4/6/2023, 2:31:24 PM

#11 君の目を見つめると

傍らから君の目を見つめると
夏の夕日のフィルタのせいで
伏せた睫毛の形をした藍色の陰が落ちていた

かなしいけど、きれいだな

そう思うけど、声にはならず
代わりに風鈴がリンと鳴った

きみとぼくとは、決して目が合うことはない
奇妙に香り立つ正方形の部屋の隅
きみは、写真の中のぼくばかり眺めている

正面から君の目を見つめると
待つのが少し、つらくなる

夜の帷を下ろすため、ぼくは煙の後を追う

4/5/2023, 10:43:36 AM

#10 星空の下で

ぼくは今も、この瞬間も星空の下に立っている。
朝でも、昼でも、宇宙に包まれている。
タワーに登っていても、階段を降りていても、地球の上に立っている。

たのしくても、かなしくても、どうでも良くても、棄ててしまいたくても、信じていても、もがいていても、何をしていても、満天の星空の下で息をしている。

うつくしいものは、実はいつもすぐそばにある。
そのことに打ちひしがれてしまうなら、込み上げる眼球の結露を拭って、星空の中にいることではなく、星空の下に立っている意味を考えてみようと思った。

みんながみんな、答えが出ないことに安心したくなれば、少しは人間もうつくしくなるのかな。

築年数の経ったマンションのそれでも最上階、ベランダに立って、数百光年前の輝きに向けて手で作った望遠鏡を覗き込んだ。
目を眇めながら、ぼくは何だか、辞めた煙草が吸いたくなった。

4/4/2023, 1:29:35 PM

#9 それでいい

休日の朝食にトーストを焼くため。
窓辺の暖まった猫の毛を撫でるため。
雨の音を聴きながら本を読むため。
ラベンダーの香りのするベッドに寝転ぶため。
冥王星に想いを馳せるため。
きつね色のカステラを頬張るため。
夏の夕暮れに温い湯船に浸かるため。
旅行先で買ったマグでコーヒーを飲むため。
クタクタの仕事を恨むため。
死んだロックスターを弔うため。
レイトショウでひとしきり泣くため。
君とおしゃべりをして笑うため。

生きている理由なんて、それでいい。

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