#8 1つだけ
――宝物など大して持っていないよ。……1つだけ。
「1つだけ」というテーマでまず思い出したのは、昔の自分が作った曲に、昔の自分が綴った歌詞の一節だ。(完全引用ではないが)
当時も、思い出しているまさにこの時も、その宝物が何であるかは明確にしていない。
だけど私は知っているのだ、自分に宝物は1つしかないことを。
敢えてそれを今、言葉に変換してみる。
恐らくそれは、時空を超える、五感に関わり、哀愁に似ている、愛情の形をピタリと模した、心で思い出す記憶かつ最新情報かつ予感だろう。他者と膜1枚分だけ隔てられた――逆に言えば、他者と自身が限りなく近い――場所にある、人間であれば皆お揃いの、それでいて唯一無二の“もの”だろう。
やはり宝物ともなれば、それのことを思い出すとじんわりとうれしい気持ちになる。すごいことだ。
忘れた頃という延長線上の未来にまた、この1つの宝物について反芻し、形容する日が有ればいいな。
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#7に対する補足:
“大切なもの”と“宝物”の差は、宝箱にしまっているか否かです。
#7 大切なもの
大切なものが無くなって、傷ついた。
嫌なことから全力疾走をして逃げ続けているうちに、落としてしまったのかもしれない。
大切なものが無いなんて、嘘でしょう。
自分でもそう思うけど、確かに平坦で起伏のない日常を護りたいけど、それでも。大切なものではない。
なんだろう、私が大事にしているもの、失いたくないものは、手を広げて包み込んだり、愛情を注いで育んだり、思い遣って撫で回したくなるものじゃない。
他人が手を伸ばした時に咄嗟に距離を置かせたり、刃を向けられたら気が触れたような悲鳴をあげるだけの、弱い信仰者がする行動をとってしまうようなもの。
辛くて、苦しい。
悲しくて、虚しい。
恥ずかしい。
私は私が恥ずかしい。
#6 エイプリルフール
呼吸をするように嘘を吐いて生きているくせに、
嘘を吐いてもいい4月1日を迎えても、
気の利いた嘘やウィットに富んだ嘘は出てこない。
もちろん、優しい嘘なんてものも。
私の嘘は身を守るための嘘。
私の嘘は見栄を張るための嘘。
私の嘘は虚勢を張るための嘘。
自分ばかりで気持ちが悪い。
くだらなくて、嗤えてくる。
人間らしくて潔いけれど、
こんなことを態々、開き直りたくなどない。
今日は1年に1度だけ、嘘について考える日。
そんな今日を忘れるな。
明日から、吐かなくていい嘘を減らす1年が始まる。
#5 幸せに
幸せが何であるかも、どんなふうであるかも、未だにはっきりとしないというのに。私は幸せになることを恐れているし、避けている。
不満足でありたい。
満たされないでいたい。
いつまでも自由に焦がれていたい。
不幸になりたいわけではない。
報われず、理不尽に打ちのめされたいわけでは決してない。
多くを望むのが、恐ろしく怖いだけだ。
生まれながらに、過剰なものが性に合わないだけだ。
私は臆病で愚かで怠け者である。
幸せを望まぬ、怠惰な人間である。
#4 何気ないふり
私の日常は、何気ないふりの連続だ。
そうやって正気を誤魔化していなければ、
とてもじゃないけど生きていかれないもの。
生きているなんて、不思議な世界だ。