小砂音

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4/8/2023, 4:49:24 PM

#13 これからも、ずっと

「これからも、ずっと」

なんて使い所の少ない言葉だろう。
現状に満足した状態で、ずっとだなんて極論無理なものを願掛けるような文。

だけどそんな穴だらけの言葉に、救われるわたしがいる。
つい、口を突いてしまうわたしがいる。

かなしい優しさから生まれる言葉なのかもしれない。
冷たい情熱が言わせる言葉なのかもしれない。

4/6/2023, 2:31:24 PM

#11 君の目を見つめると

傍らから君の目を見つめると
夏の夕日のフィルタのせいで
伏せた睫毛の形をした藍色の陰が落ちていた

かなしいけど、きれいだな

そう思うけど、声にはならず
代わりに風鈴がリンと鳴った

きみとぼくとは、決して目が合うことはない
奇妙に香り立つ正方形の部屋の隅
きみは、写真の中のぼくばかり眺めている

正面から君の目を見つめると
待つのが少し、つらくなる

夜の帷を下ろすため、ぼくは煙の後を追う

4/5/2023, 10:43:36 AM

#10 星空の下で

ぼくは今も、この瞬間も星空の下に立っている。
朝でも、昼でも、宇宙に包まれている。
タワーに登っていても、階段を降りていても、地球の上に立っている。

たのしくても、かなしくても、どうでも良くても、棄ててしまいたくても、信じていても、もがいていても、何をしていても、満天の星空の下で息をしている。

うつくしいものは、実はいつもすぐそばにある。
そのことに打ちひしがれてしまうなら、込み上げる眼球の結露を拭って、星空の中にいることではなく、星空の下に立っている意味を考えてみようと思った。

みんながみんな、答えが出ないことに安心したくなれば、少しは人間もうつくしくなるのかな。

築年数の経ったマンションのそれでも最上階、ベランダに立って、数百光年前の輝きに向けて手で作った望遠鏡を覗き込んだ。
目を眇めながら、ぼくは何だか、辞めた煙草が吸いたくなった。

4/4/2023, 1:29:35 PM

#9 それでいい

休日の朝食にトーストを焼くため。
窓辺の暖まった猫の毛を撫でるため。
雨の音を聴きながら本を読むため。
ラベンダーの香りのするベッドに寝転ぶため。
冥王星に想いを馳せるため。
きつね色のカステラを頬張るため。
夏の夕暮れに温い湯船に浸かるため。
旅行先で買ったマグでコーヒーを飲むため。
クタクタの仕事を恨むため。
死んだロックスターを弔うため。
レイトショウでひとしきり泣くため。
君とおしゃべりをして笑うため。

生きている理由なんて、それでいい。

4/3/2023, 1:05:53 PM

#8 1つだけ


――宝物など大して持っていないよ。……1つだけ。

「1つだけ」というテーマでまず思い出したのは、昔の自分が作った曲に、昔の自分が綴った歌詞の一節だ。(完全引用ではないが)

当時も、思い出しているまさにこの時も、その宝物が何であるかは明確にしていない。
だけど私は知っているのだ、自分に宝物は1つしかないことを。

敢えてそれを今、言葉に変換してみる。

恐らくそれは、時空を超える、五感に関わり、哀愁に似ている、愛情の形をピタリと模した、心で思い出す記憶かつ最新情報かつ予感だろう。他者と膜1枚分だけ隔てられた――逆に言えば、他者と自身が限りなく近い――場所にある、人間であれば皆お揃いの、それでいて唯一無二の“もの”だろう。

やはり宝物ともなれば、それのことを思い出すとじんわりとうれしい気持ちになる。すごいことだ。

忘れた頃という延長線上の未来にまた、この1つの宝物について反芻し、形容する日が有ればいいな。

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#7に対する補足:
“大切なもの”と“宝物”の差は、宝箱にしまっているか否かです。

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