8月31日、僕は学校の課題に追われていた。
「もう全然終わらない!」
「もー だから夏休みの最初にやりなよって何回も
言ったじゃん。今年の夏はいっぱい遊ぼうって
約束したのに」
隣にいるふくれっ面をした少女は妹のみな、中学3年生。
そして僕も3年生。いわゆる双子ってやつ。友達からは兄弟と喧嘩したやらなんて話はよく聞くけど、僕たちは滅多にけんかなんかしない。他の兄弟に比べると、僕たちは結構仲がいいほうだと思う。
「お兄ちゃん手、止まってるよ」
「あ、ごめん」
なんて会話をして、僕は再び机の上にある紙に目を落とす。
「うわぁ…」
が、また手が止まる。今しているのは僕の苦手な数学の課題。意味のわからない数式や数字がたくさんあってクラクラしてきた。
「ほらほら頑張って あと14問で終わるでしょ」
「うぇ、無理…………みな、やって〜」
「嫌だよ。 そんなことしたら、私がお母さんに
怒られちゃうんだからね」
「いいじゃんか〜 そんぐらいさあ」
「…ꐦ くじが100本ずつ入った箱が2つありそれぞれの
箱に入っている当たりくじの本数は異なる。これらの箱
から二人の人が箱を選んで一つずつ箱からくじを引く。
ただし、引いたくじは戻さないとする。また…」
「あー!わかった。わかったから!?やるって!だから
問題文を口に出して読むのやめてよ〜」
「まったく…最初からちゃんとしてればいいんだよ」
はは…真面目にやってもなんか言うくせに、なんて思いながら苦笑して、僕はまた問題用紙に目を落とした。
それから何時間か経ったころ
(いや、本当はもっと短くて僕が、勝手に長いと思い込んでただけかもしれないけど。)
「やっ……と 終わった〜!!」
「お疲れ様 そうだ!最後日遊びに行けなかったし
今から散歩にでも行かない?」
「散歩かー、いいね。ちょっと待って財布持ってくるよ」
外に出て少し歩いていると急に冷たい風が吹いてきて、赤くなりかけた葉っぱが顔に貼り付いてきた。
「おわるのかぁ」
そしたら、みなが小さな声でそうつぶやいて
少し寂しそうな顔をしたから。僕も小さな声でつぶやいた
「でも…また会えるよ」
「そうだね」
♯秋
私には大切なものがたくさんある。誕生日にもらったポーチとかイヤリングとか、なんでもない日にもらった安い
ガチャガチャのキーホルダーでも、私にとってはとても大切な宝物になる。
宝物は一生消えないように、なくならないように、宝物箱に入れる。子供っぽいとか笑われることもあるけど、大事なものだからそうせずにはいられない。そこまでしなくたって大丈夫だってことはわかってるはずなんだ。
でも…やっぱり心配なんだ。
消えていってしまうのが。
それでもやっぱりしまえないものはたくさんある。
言葉とか時間とか、例えば「ありがとう」っていう言葉とか、一緒にカラオケに行った時間とか、もらった時は嬉しいけど、いつの間にか忘れて自分の中から無くなってく…
薄れて消えていく…それが嫌なんだ。
私がこうなってしまったのは考えるまでもないだろう、 6年前の大好きだったおじいちゃんの病気だ。外で一緒に散歩している時に急に倒れて、何もわからなくなった。遠くから救急車のサイレンの音が鳴り響いて怖くて怖くて仕方なかった。そのままおじいちゃんは逝ってしまった。もっとたくさん思い出を作っておけばよかったって思ったけど、元気だったおじいちゃんが静かに眠っているのを見て今更どうすることなんてできないんだって涙が出てきた。 おじいちゃんのことは忘れないって私誓ったけど、もうかなり忘れかけてる。
結局どんなに頑張っても人だから。
だから今日もできる限り今日のことを書き残して、宝物箱に思い出を閉じ込めて、いつか今日のことを忘たとしても、またこれを見て思い出せるように、
心に刻んで生きていく
♯形の無いもの
僕 ねえねえ、今度はジャングルジムで遊ぼうよ!
男の子 うん、いいよ!遊ぼう!
女の子 あ、待ってよー!
僕 ふう、1番乗り!
女の子 やっぱり登るの早いね
僕 そう?…えへへ
男の子 あ、あれ見て!向こうに虹がある!
女の子 本当だ すごーい
僕 わあ…綺麗だね
男の子 そうだ!あの虹まで行ってみようよ!
女の子 えー!でもあんなに遠いとこまで行けないよ
男の子 行けるよ 僕すごく足速いんだから
女の子 でも私は遅いもん
僕 うん。僕もあんまり速くないし…
男の子 えー、なんだよ つまんないなぁ…
僕 まあまあ そうだ次はブランコで遊ばない?
女の子 いいね! あ……
僕 どうしたの?
女の子 もう5時だ 私もう帰らなきゃ…
男の子 え、本当だ
僕も今日は5時までに帰ってきなさいって
お母さんに言われてたんだった…
僕 え…そうなんだ
女の子 遅れたらお母さん怒るから…もう帰るね
男の子 うん、僕も帰る
僕 あ…ちょっとまって
男の子 どうしたの?
僕 えっと…その…
二人 ??
僕 いや…ごめん、何でもない
二人 そうなの? じゃあまたね~
僕 ………またね
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アナウンス 次は〇〇駅 〇〇駅〜
そのアナウンスの声で目が覚めた。どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい。
聞き慣れない駅名に乗り過ごしてしまったのかと思い慌てて身を起こす。が、そこではっと思い出す。仕事が一段落しため実家に帰ることになっていたのだ。僕が降りる駅はあと3つほど後の駅だった。
しかし随分と現実味のある夢だった。僕はあの2人と仲が良さそうだったのに、あの2人が誰なのか分からない。それになぜ僕は何かを言いかけてやめたのか、そもそもあの場所はどこだったのかそれがまるっきり思い出せない。
まあ、夢なのだからそんなに考えても意味のないことは分かっている。それでも、もやもやとした気分のまま自分が降りる駅に着いた。電車を降り改札を出る。そこにあった景色は昔とあまり変わっていなかった。
方向音痴の僕は実家への道も迷っていたかののもしれない、昔よりも家に着くまで時間がかかった気がした。実家について一言、ただいまと言う。奥の方からドタバタと慌ただい音が聞こえてきた。それから少しして嬉しそうな顔をした母が出迎えてくれた。久しぶりに家族全員で夕飯を食べてから。2階の元々自分の部屋だった場所で布団を敷いて寝た。
その夜また夢を見た。僕は1人で立っていた。その前には電車で寝てしまった時に見た夢と同じ子達が二人で遊んでいた。場所はまた違くって、でもそこもまた公園みたいだった。そして今度も僕は提案する「ジャングルジムで遊ぼうよ」するとその子達が振り向いてちょっと驚いて少しの間があってから 「いいよ!」そうかえした。
♯ジャングルジム