霧夜

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7/18/2023, 10:46:40 PM

私だけ

私だけが知っている

寝癖が付きやすいことも、朝がすごく弱くてよく近くにいる人にすり寄ってくることも、頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めてくれることも、顔を洗ったらいつもの調子に戻ることも、雨の日の休みは放っておいたら昼過ぎまで寝てしまうことも、お出かけの日は私と同じくらいに起きることも。

全部全部、私だけが知っている、真面目な彼の裏側だ。

7/18/2023, 12:30:30 AM

僕は彼に、一度だけであったこと事があった。
その時の僕はまだ小さくて、僕はいつも周りにされるがままだった。
あれをしなさい、これをしなさい。僕は言われる度にまるで操り人形のように動いていた。
そんな僕を変えてくれたのが、彼だった。
別に直接教えてくれたわけじゃない。彼の姿を見て、彼が自分の意見をしっかり持って動いているところを見て、操り人形にされて、虐められていた僕を助けてくれた彼を見て、僕はそこで初めて変わろうと思えたんだ。
僕も一人の人間だから、いつか彼のようになって、誰かの背中を押せるような人になりたかった。

今の僕があるのは、全て彼のおかげ。
だから、今度は僕が彼の背中を押してあげる番。
暗い部屋でうずくまっていた彼を、僕は抱きしめて
「大丈夫、大丈夫」
と声を掛けた。
遠い遠い、昔の記憶。
今度は僕が彼を支えたいと、あの時の恩返しがしたいと思ったんだ。

7/16/2023, 10:12:33 AM

「今日も空が綺麗だな」
「?今日の天気は曇りだぞ?」
「うん、分かってるよ」

彼は心底不思議そうに首を傾げながら、再び空に目を向けた。
今日の空は、重苦しい灰色の雲に覆われている。
感覚は人それぞれだが、大体のやつはこの天気の中で空が綺麗だなんて言わないだろう。
しかし、俺の目には、今日の空も美しく輝いているように見える。
雨の日も曇りの日もどんな日だって、俺が見ている空が綺麗じゃなかったことなんて無い。

雲一つ無い、晴れやかな空。
それは、彼の髪の色だった。
少し濃い青の空と、薄い青の空は彼の瞳の色だった。
俺の空はいつだって彼一人だった。
太陽が輝くように笑い、雷がなるように怒り、雨が降るように涙を流す。
俺だけが分かる、本人でさえ知らない俺だけの空。

だから俺は、あいつの事を見ながら、今日も今日とて彼にこの言葉を伝える。

「今日も空が綺麗だな」

7/16/2023, 5:43:31 AM

「もう終わりにしよう。こんな関係」

俺といるより、他のやつと居たほうが間違いなくこいつは幸せになれる。
それだったら、俺から別れを切り出せば、こいつも離れやすいと思ったんだ。

「じゃあ、なんでお前は……」

俺は下げていた視線を上げ、彼の姿を見た瞬間、俺自身の時間が止まったかのように体が固まってしまった。
彼は大粒の涙を流しながら、こちらを睨みつけていたのだ。

「なんでお前が…ッ……そんな…そんな辛そうな顔、するんだよッ…!!!」

言葉を告げた俺もまた、涙をボロボロと流しながら、顔を歪めていたことなんて、俺自身知る由もなかった。